第19話 白花、赤面す。

付き合うことになったとはいえ、何をどうすればいいのか分からなかった。

何せ初めての恋人であるし、同性とくっつくなんて私自身思ってなかったのだからどうすればいいのか全く分からない。

恋人ならではのことをしないとだめなのか。

そんなことはないのだろうが、では何もしないのでは恋人同士になった意味がない。

…。ごくりと生唾を飲む。

キスはした。

ということはその次へ行くのか?

その次…。思わず自分の部屋のベッドを見る。

…。


そういうことをするってこと?



×××



文化祭が終わって次の週。

月曜日。黒蜜さんはやってきた。それも普通に。

告白された日は随分ガチガチになって下校するときにはかなり眠たそうな顔をしていたが、回復したようだった。

それはそれとして、なんだか妙に普通なのだ。私も普通に接しているのだが、これ一つとして変わったことはないのだ。赤面したり、すこしもじもじしたり…。ギャルが照れてるところがかわいいというのは清楚派の私でも同意せざるを得ないのだが…そのかわいい仕草の一つもない。

そうか。いつも通りでいいのかと自分で納得していると昼休みになって黒蜜さんが泣き出した。人の少ない外で食べているので人の目を気にせず泣く。泣くような子ではなかったのだが…。どんどんキャラ変する黒蜜さん。

「ど、どした。」

「いつも通りすぎるぅぅう。」

「え、それはこっちのセリフなんだが…」

「にしてもだよ。なんか、もっとこうあるじゃん?」

…。どれだ。抽象的すぎるだろ。

「うーん。…私、考えてたんだけど…恋人って何するのかな。」

私の言葉にピクリと反応する黒蜜さん。思わず静止してしまったようだ。

「いや、こう…一緒にいてきゅんきゅんしたりさ、ときめいたりさ、一緒にいて楽しいなとか嬉しいなとか、一緒にいることで幸せになる関係ってことじゃん! 考えすぎでしょ!」

黒蜜さんの熱に思わず引くのだが、それもそうかと思いなおす…が。

「でも、うちの両親はそんな感じじゃないな。」

「それは夫婦だからでしょ。家族はある意味恋人とは別だよ。責任も増えてるし、考えないといけないことが増えてるから単純にときめく時間がないだけ。あるいは…いや、私たちはそうはならない。」

あるいはの続きは冷めたってところか。

「でもそうか、一緒にいて幸せ…か。もう十分幸せだけどな。」と私のつぶやきに黒蜜さんは顔を赤くする。

「何言ってんだもう。」なんて照れて肩をビシビシ叩く。

照れすぎだなぁなんて思っているとスンと真顔になった。怖い怖い。

「でも、なんかもうちょっと距離縮めたい。」

「え、もうキスもしたのにこれ以上って…」

「え?」

「え?」


「「…。」」


今度は二人して真っ赤になる。煙が出そうな程真っ赤になる。

「そ、そういうのはまだ早い!」と黒蜜さん。

「そ、そうだよね。」

「でも、いずれする!」

「す、するんだ。」

「え、嫌なの!」

「い、いや嫌じゃないけど…想像つかなくて。」

「私がリードする。」

「…目がエロいよ。」

「大丈夫。高校の間はそういうエッチなことはしない。」

心の中でホッとする。別に嫌とかではないのだが、妙に恥ずかしいのはなんなんだろうか。それとももっと黒蜜さんのことを好きになれば自然としたいと思うようになるのだろうか。


「でも、キスだけじゃ満足できない。」再び問題提起する黒蜜さん。

「欲張りさんめ。」

「へへへ。」

「褒めてない。」

「…なにかないだろうか。アイデア求む。」

一応考える。距離を縮めるか。

「単純にハグとか。」

「え、それは普通にすることでは。」

「…。どういうものを求めてんだ。」

「なんていうかこう…ああ、私たち恋人だなって分かるような感じの奴。」

「ハグも十分恋人っぽいけどな。だって仲いいの黒蜜さんだけだし…。」


「それだ…。」


どれだ。と黒蜜さんの顔を見る。

指で私を指してアバウトに仰天顔。なにか閃いたようだ。

「なに」と私が満を持して聞くと


「名前で呼び合おう。」と黒蜜さんは提案してきた。


なかなかハードルの高いことを言いなさる。







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