第9話 黒蜜、話す。
白花との間に妙な空気が流れる。
照れくさくて、気恥ずかしい…でもそういう空気が嫌じゃないというぽかぽかする空気だった。辺りは陽が落ち始めて暗くなってきた。
「実は本題はここからなんだけど…」と私が言うと白花は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
父親が失踪した。結構練って準備をしていたらしく、家の解約もこの夏の前には決まっていたようだ。大家さんも私が取り残されていることに驚いていた。
「つまり、今の家…出ていこうかなって思ってるんだよね。」
大家さんの温情でしばらくいてもいいとのことだったが、なんだか心苦しい部分があって快く引き受けることができなかった。
「それは…どこに?」
「まぁ親戚の家だよね。」
「そう…なんだ。」
白花はそういうと下を向いた。
ブランコの近くの街灯が灯る。辺りは夕方から夜に変わろうとしていた。
「遠くなりそうなの?」と白花が訊く。
「うん。バス通学になりそう。」
「…そっか。」
沈黙。
白花とはもっと楽しい話をしたい。でもこういう話は必要だ。結構早い段階でやってくる未来の話だし、そのまま白花に黙っておくのは違う。
すると珍しく白花が話し出す。
「私…黙ってたことがあって…。なんか調子に乗ってたというか、黒蜜さんをほっとけなかったんだ。それで…黒蜜さんを更生させる作戦なんか立ててさ。今思うとかなり失礼なことだったかも。なんか黒蜜さんを軽く見ていたというか…。仲良くなって自白させようみたいな作戦でさ…笑っちゃうくらい嫌な奴だな私って。」
自虐。珍しく白花は感情的だった。涙を浮かべて地面に話しかける。まるで自分を痛めつけているかのようだ。
「そんなことない。白花と仲良くなった。それで私は学校へ行くようになった。作戦のおかげじゃないか。なにを言ってるんだ。白花はすごいよ」
「でも、そうなるんだろうって思って作戦立てた私ってかなり上から目線で何様なんだって…。」
あーもう。何やってんだ私。白花の泣き顔なんて見たくないのに。
私は白花の元へ駆け寄って後ろから白花を抱き寄せる。
「大丈夫。ありがとうね。白花のおかげで私は前進できたよ。」
「…。」
「珍しいなぁ。感情的になるなんて。」
「自分でもなんでか分からない。けど、黒蜜さんといると時々、感情が抑えきれなくなる。ここ最近特に。」
「あらら。」
なんだかわいいな。
「…もっと、黒蜜さんといたいよ。」
「それは私も。だからこういう話をした。いつも朝来てくれるからさ…。どうしようって。」
白花はしばらく俯いた。何を考えてるんだろうと覗き込むと真っ赤になって目を逸らす。後ろから抱き着いてるから逃げられないぞ。
「いつか、二人で暮らす?」
白花の言葉に私は硬直した。
おいおいおい。こりゃすごいな。
心が軽くなった。
いままでの憂鬱な気分が吹っ飛んだ。
私が満面の笑みでへへって笑うとなに笑ってんだと返してきた。
シリアスな空気から一変して和やかな空気になった。
「いいねそれ。」
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