第5話 白花の思い

私のアイデアはこうだ。

黒蜜さんと仲良くなり、プライベート関係を深めていく。

仲良くなった段階で黒蜜さんに自身を改めてもらう。

親友の助言である。そう助言。けして突き止めたり聞き出したりするのではなく、彼女のサポートとして徹するのだ。

親友の助言であれば、黒蜜さんは目を覚ましてもとに戻り、仲も深まるというものだ。謎に関してはその都度、推測して行けばいい。そこはデリケートな問題だと思うし、土足でずかずかと近づかない。


安直なアイデアだと思うのと同時にナイスなアイデアだと私は思った。

この間、数分。私は朝食をとるのを辞めると、掃除用具と食材を用意して昨日知った黒蜜さんのいる家へ向かったのだった。


×××


黒蜜さんと仲良くなりたい。

それは以前から思っていたことだ。黒蜜さんの前で話したことが大半の意味を占める。数少ない友達の一人だからこれを機に仲良くなるのも手だ。

ただ、それだけではない。私は彼女に憧れと恩がある。

クラスを引っ張るリーダ性と場を和ます臨機応変な対応。分け隔てなく接してくれる彼女の優しさに私は惹かれた。ただ、同時に眩しくもあった。


中学時代。

何でもない昼下がりの時。

陽キャの悪ふざけに巻き込まれ窓を割ったグループに入れられる。

特に何もしていない。ただ、グループの近くにいたというだけで疑われた。疑う教師も教師だが、最悪なのはそのグループ集団がこぞって私を悪者に仕立て上げようとした。要は私が窓を割った犯人だと言いだしたのだ。

私は心底むかついたが、場を沈ませるためにその話をなぁなぁにして、共同で罪を背負う方へ話をシフトさせようとしていた。つまりは弁償を全額負担するよりは人数分で分け合ったほうが負担が少なくて済む。

疑心暗鬼な生徒指導の教師を説得するよりその方が波風立たずに場を収めることが出来る。そう思った。


だが、そこに仲裁が入る。

黒蜜さんだ。

生徒指導の教師が『こちらの話だ、お前には関係ない』と言う。

黒蜜さんは言った。

「おかしいです。白花さんは本当に何もしていないですよ。」


晴れて、私は無実となり生徒指導室を後にする。

ふふと笑う黒蜜さんに私はありがとうと小さくお辞儀をしてその場を去った。

かっこいいなと思った。だがふふと笑う顔は可愛くて…。

眩しい存在だった。なんというか、この人になら心を開いてもいいかもしれない。心の隅でそう思った。

それ以降、黒蜜さんとは教室で話をする程度の関係になった。


×××


黒蜜さんには恩がある。

今も忘れてはいない。

中学時代、結局仲良くなれなかったのは、黒蜜さんがクラスメイト全員と平均的に関係を持つが故に、誰か一人の特別にはなれなかったのだ。

それでいいと思ったし、それが黒蜜さんなのだろうとも思った。


私はなるべく波風を立てず生きていく。

黒蜜さんがいようがいまいが関係ない。

そうやって私は冷静な判断をする子だと言われた。


だが、黒蜜さんが迷っている…困っているなら私は力になる。

力になりたい。


黒蜜さんと朝食を取りながらそんなことを考えていた。

その後、学校で急に押しかけたことがよくなかったのではないかと思い、自身の行動を恥じていたが黒蜜さんちの帰り際、また来てと言われたことを思い出す。

私がしたことは迷惑ではなかったのかもと心が少し楽になった。








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