第3話 黒蜜の戸惑い
結局白花は何をしにきたのだろうか。
おそらく教師に何か言われてきたのだろう。
そうでなければ、白花から私の家にくるなどあり得ない。
白花百合。
世渡り上手でそういう好き嫌いをはっきり言う性格でありながら、嫌われているというような噂を聞いたことがない。
目立ってはいなかったが、彼女の生き方はエリートの様に思えた。
ボーイッシュな雰囲気の子。まさしく王子様系とでもいうのだろうか。内面は全然王子様ではないんだろうけど。
白花が帰ってから既に二時間は経った。
私はまた一人に戻った。
静かな夜が来る。
私はふすまを開け寝室のベッドに横たわる。
久しぶりに人と話をした…。
疲れた。眠気がどっと私の瞼を重くした。
×××
とんとん。
トントントン。
ドンドン。
嫌な音が響く。むくりと起き上がり音の鳴るほうへ向かう。
その間、時間をチェック。朝の六時。早い。
なんかの勧誘か? 居留守を決め込もうかとドアスコープを覗く。
そこには白花がいた。
思わず勢いよくドアを開く。
「え、ちょ、白花…! な、なんで…。あ、忘れ物?」
「いいえ。今日から、しばらくここに通ってから学校に行くことにしただけ。」
「え?」
どういうこと?
私が困惑しているとひょいと私の目の前を通って中に侵入してきた。
制服姿だ。学校へ行くには行くのだろうが…一緒に行こうということだろうか。
にしては、荷物がおかしい。指定カバンと…ビニール袋?
困惑に困惑を重ねて、白花の行動を観察するしか出来なかった私を他所に、白花はビニール袋の中からゴム手袋を取り出す。そしてこういうのだった。
「とりあえず、キッチン使わせてもらいたいから、ここ掃除していい?」
「え…、あ…うん。」
と答えることしか出来ず、唖然としながら白花の行動を見る。
何が起きているんだ。
「あ、あの…説明とかって…。」
「さっき言った通りだけど。」
「だから、どういう…。」
「黒蜜さんの家、結構近くにあったて知ったから…一緒に食べようかなって思って。」
「そんな、急に言われても…。」
「…放っておけないよ。」
「…。」
何も言えなかった。
見ればわかる。私の身体のあざ。
確かに私も白花にこういうあざがあったら放っておけない。
…。
昨日は何も聞かないでくれた。…気を使ってくれていたんだ。
きっと察しているんだ。私と親父とで何があったのか。
空気が少し重たくなる。
シリアスな雰囲気になりそうな場面で白花は口にする。
「食材も持ってきた。今日はトーストにチーズとピザソースとベーコンをのせたなんちゃってピザを作る。」
なにそれうまそう。
×××
昨日のままになっているので出したちゃぶ台もそのままだった。
そこに二つの皿。二つのコップ。
牛乳とピザ風の食パンが並ぶ。
こういう光景は久しぶりだ。
『いただきます。』と合掌をして食べ始める白花を見て、私も食べ始める。白花は口の中を飲み込み話し出す。
「さっきの話だけど、放っておけないっていうのは…黒蜜さんのことが気になるってのもあるけど…別に同情とかそういう悲しい気持ちとは別。私が単に今の黒蜜さんを構いたいだけ。」
「世話焼きだなぁ。」と作り笑いでツッコミを入れる。
そうか、やはり彼女も今の私を見て、そういう残念な気持ちになるんだな。白花は嘘が下手なんだろう。そういうことはすぐ分かる。
少し落ち込む。ただ、世渡り上手の白花がこういう行動に出ていることに密かに驚く。
「それに、なんでそこまで構っているのかっていうと…私って友達が少ないし、黒蜜さんも私の貴重な友達の一人だからさ…。もっと仲良くなりたくて。それこそプライベートでも話せるくらい…って今まさにプライベートに私が勝手に乗り込んでんだけど。…昨日はそれを言いたかった。でもなかなか言えなくて…。だから、そう仲良くなりたくて構ってるだけだから…。今は何も聞かないよ。」
『それだけだから。』といい白花は最後の一口を食べ終え、牛乳を飲み干す。
白花の顔に変化はない。ある程度の眉の動きはあるがそれだけだ。表情の変化が乏しい。だけど目線を逸らしたり、目をぱちぱちさせたり、なんとなく照れてるのかなぁくらいの気持ちを受け取ることは出来る。
それをみて私は前言撤回をする。落ち込むなど私の勝手な妄想が生み出した感情なのだ。
先ほどとは違う気持ちが湧く。うれしい。
目の前の光景が黄色い光に包まれて暖かい気持ちになる。
自然と口が動いた。
「また、明日も来てよ。」
白花は「分かった。」と頬をかきながら頷いた。
×××
その後、白花は『学校へ行く』と言い、学校へ向かった。
本当に朝ごはんを私と食べに来ただけだった。
なんていうか行動力がすごいな。
ああいうことが出来るのは素直に尊敬するな。
しかし、白花は友達が少ないのか…。
てっきりいっぱいいるものだと思っていた。
人付き合いは出来てたし…。
私はここで一つの仮説を立てた。
もしかして白花の友達の定義が狭いのでは。
…。
もしかしたら、私はまだ白花の思う友達の定義の範疇に入ってなかったのかも。
私は白花と友達に成れていたと思っていた。いや、そうだ。私と白花は友達だ。
白花も貴重な友達の一人だと言っていたし…。
だが、思い返せば…教室で話すくらいしかないが…それでは友達に成らない?。
友達は友達だろう。でも確かに寂しい気はする。
友達とは…どこからを…。
やめよう。
考えすぎる癖を治したいな。
キッチンを見る。
いつもより少し綺麗になっている。
もったいないと思った私は、今日使った分の食器くらいは洗うことにした。
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