第33話 囚われの少女

 31階層に到達した。

 魔物の数が、メッキリと減った。

 25階層以降から、魔物が一切出現しなくなった。


「ダンジョンって、もっと魔物だらけのイメージがありました」


 ルイズが、不思議そうな顔で聞く。


「ダンジョンは千差万別だからな。ダンジョンの中には、魔物がほとんど出ない所もある」

「魔物が出ないダンジョンがあるの? 知らなかったにゃー」


 フローラが、感心したような声音で言う。


「このダンジョンは、階層によっては魔物が、出現しないタイプのようだ」

「なんだか、ダンジョンって不思議」


 エルフリーデが、周囲を警戒しながら言う。


「全くだな。ダンジョンは本当に不思議だよ。未だに解明されていない部分の方が多いんだ」


 ダンジョンの形態はあまりにも多種多様だ。


 研究者たちが、何百年も研究を続けているが、未解明の部分の方が遙かに多い。


ダンジョンの多くは内部が、亜空間になっている。

 常識が全く通用しないので、警戒を怠れない。

 油断していると、熟練の冒険者でも、足下をすくわれる。


「しかし、本当にトラップが多いダンジョンだな」


 俺は呟いた。 

 このダンジョンに潜る冒険者が、少ないわけだ。

 今の所、手に入ったのは、わずかな宝石類のみ。


 高価な薬草も、稀少な魔導具マジックアイテムもない。

 トラップの難易度から考えると、正直、割に合わない。


 まあ、この下の階層に、莫大な財宝や貴重な魔導具マジックアイテムがある可能性はある。


 もう少しだけ、潜ってみるか。


 そう思った刹那、俺の耳に、


「助けて……」


 というか細い声が、響いた。

 ルイズたちにも聞こえたのだろう。立ち止まり、耳を澄ましている。

 数秒後、さらに、


「誰か、助けて……」


 という声が聞こえた。 

 少女の声だ。

 俺よりも遙かに耳が良いであろう、ルイズとフローラが、俺を見る。


「先生も、聞こえましたか?」

「カイン、女の子が助けてって言っているにゃー」


 俺は沈黙して、顎に手をあてた。

 誰かが、思念を飛ばしている。


 念話テレパティアだ。

 一体誰が……。

 罠か?


 だが、万が一、救助要請だとしたら、助けないといけない。


  先行した冒険者が、トラップに引っ掛かり、助けを求めている可能性がある。


「先生、これは罠でしょうか?」


 ルイズが、美貌に緊張の色を湛える。


「罠の可能性はある。人の声を真似る魔物もいるからな。だが、本当に誰かが助けを求めているのかもしれない」

「なら、助けないといけないにゃ」

「ん」


 フローラとルイズが、言う。


「俺も同意見だ。警戒しつつ進み、確かめてみよう。誰かが、助けを求めているなら助けたい」


 俺の言葉に、ルイズたちが頷いた。








 1時間後。

 何度も声が響き、導かれるようにして進んだ。

 やがて、石造りの扉の前に来た。

 トラップに警戒しながら、扉を開ける。


 巨大な部屋だった。

 まるで、神殿のようだ。


 床には、レリーフが刻まれた石が敷き詰められている。

 天井はドーム型で、100メートル以上もある。


「助けて……」


 という声が響き、俺たちは視線を投じた。

 視線の先、室内の奥に少女がいた。


 少女は、玉座のような椅子に座らされ、拘束されていた。

 首元には、奴隷のような首輪があり、手足は枷と鎖で拘束されている。

 俺たちはトラップに警戒しながら、歩み寄った。

 少女の年齢は、10歳前後だろう。


 鮮やかな紫色の長い髪と、紫紺色の瞳をしていた。

 顔立ちは幼いが、美しい。

 薄い布の服を着せられており、細い手足が露出していた。


 ふと、俺は彼女の側頭部に、小さな赤い角が生えている事に気付いた。

人間族ではない。おそらく亜人だ。

 どんな種族かは分からないが。


「君、大丈夫か?」


 俺が、尋ねると紫色の髪の少女は、


「……お兄ちゃんは誰なの?」


 と、虚ろな紫紺色の瞳を俺に向けた。



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