第9話 希少種は、超常の存在である事が判明した。

「あ、危ない所だった……。焼死する所だった……」


 俺たちは地面に座り込んでいた。

 俺が氷雪魔法で、炎を消したので、ギリギリ焼け死ぬ事はさけられた。

 こんなピンチになったのは久し振りだ。

 森も無事……とは言い難いが、森の全てが焼き尽くされる事だけは回避できた。


「し、死ぬかと思いました……」


 ルイズの美貌が青ざめている。


「焼け死ぬなんて嫌だよね~。どうせ死ぬなら、美味しいモノを食べて食べ過ぎで死にたいにゃ~」


 フローラが、力なく笑う。精神的に疲労したのだろう。地面に女の子座りして、グッタリしている。


「私は笑い死ぬのが希望」


 エルフリーデが、変な事を言う。

 笑い死ぬのは結構苦しいんだぞ、というツッコミをしたいが、その気力がない。


 俺は『無限収納』のカバンから、水の入った袋を取り出した。

 革袋に入った水を全員で回し飲みする。


 数分後、ようやく立ち上がった。


 俺たちの瞳に、消し炭のようになった大木や、焼け焦げた地面が映り込む。

 災害の後のようだ。


「ドラゴンが暴れた後みたいだな」

「……生きてて有り難いという気持ちになりました」

「にゃ~、エルフリーデ。いつの間にあんな恐ろしい魔法を唱えれるようになったの?」


 俺たちはエルフリーデを見た。

 青髪の精霊族の少女は、恥ずかしそうにモジモジした。


「注目されると照れる……」

「うん。そうじゃなくて、魔法の話をしようか。確認するけど、あれは『火球』だよね?」


 俺が問う。


「ん。間違いない」


 外見が13歳前後の精霊族の美少女が答える。


「火球は初級魔法でしょう? なぜあんな威力が……」


 ルイズが小首を傾げる。


「精霊族の潜在能力を引き出してしまった結果だろうな」


 俺が恩寵者ギフターを使って、エルフリーデの潜在能力を引き出したからだ。


 エルフリーデが火球を唱える時、彼女の身体に膨大な魔力が流れ込むのを感じた。


 攻撃魔法は使い手の魔力量によって、威力が決まる。

 初球魔法でも、魔力量が大きいと、攻撃力が高くなる。

 これは魔法の基礎だ。


「だが、『火球』でこれ程の威力が出せる人間など聞いた事がない……」

「師匠。私は精霊族」


 エルフリーデが、小さな胸をはってドヤ顔をする。彼女の背中の羽はいつの間にか消えていた。


 魔力で構築された羽根なので、魔法を使う時だけ展開するのだ。


「そうだったな……」


 俺はエルフリーデの青髪の頭を撫でた。


 青髪の精霊族の美少女が、嬉しそうに目を細める。


(精霊族の力を侮っていた……)


 俺は心の中で吐息をついた。

 伝承では、精霊族の魔法は自然災害に等しい威力を持つと言われていた。

 伝説とばかり思っていたが、真実だったようだ。


「にゃ~、精霊族ってなんなの? もしかして、怖い種族?」

「自然と調和し、平和を愛する賢い種族。そして、私のように全員美しい」


 エルフリーデが自画自賛する。ここまで、自画自賛する人は初めて見た。かえって気持ちがいい。


「自然と調和どころか、自然を破壊していますが……」


 ルイズが、辺り一面焼け野原とかした森を見渡す。

 おれたちのいる周辺だけ、木々も草花も消滅して、大地が黒く焼けてひび割れている。


 地獄のような光景だ。自然が破壊されて痛々しい。


「……森は強い。いずれ、ここもあらたな草木が生い茂る。心配いらない」


 青髪の精霊族が強弁した。


「でも大地が焼け焦げてるよ? 植物って土から栄養をとるんでしょ? 多分、永遠にこの場所には草木が生えないと思う」


 フローラのツッコミに、エルフリーデが押し黙る。


 全員の視線がエルフリーデに集まる中、彼女はゴソゴソとスカートのポケットをまさぐり、クッキーを取り出した。


「フローラ、オヤツを上げる」


 躊躇無く買収をはじめた。凄いぜ精霊族。


「本当? ありがとう、エルフリーデ♪ エルフリーデは優しいにゃー♪」


 フローラが、猫の尻尾をふる。

 そして、猫神族の美少女は簡単にオチた。チョロすぎる。


「ルイズと師匠にもあげる」

「はあ……、ありがとうございます……」


 ルイズが、いささか呆れながらもクッキーを受け取る。


「……ありがとう」


 俺も受け取った。

 まあ、エルフリーデを責めてもしょうがない。

 ここは空気を変えた方が無難だろう。


「疲れたから甘いモノが染みるなぁ」


 俺が強引に話題を変える。


「はい。とても美味しいです」


頭の回転の速いルイズが、俺に合わせてくれた。


「しかし、ルイズも凄かったよな。矢が一角猪ホーン・ボアを貫通していた。正直驚いたよ」

「私も驚きました。あれ程の威力がでるとは……」


 ルイズが、複雑な表情をした。


「フローラも、もの凄い強くなっていた」


 エルフリーデが言う。


「うん。私も驚いたよ。元々、私は力持ちだけど、地面に穴が空くし……」


 紅茶色の髪の猫神族が、自分が作り出したクレーターのような穴を見る。


「しかも、勢い余って、戦斧が壊れちゃうし……。お気に入りだったのに~」


 フローラの耳が下がり、尻尾がへたりと下がる。


 (全員、規格外だな)

 

 と、俺の胸に驚嘆が湧き起こる。


 ハイエルフのルイズ。

 猫神族のフローラ。

 精霊族のエルフリーデ。

 

 希少種と呼ばれる彼女たちの潜在能力を甘く見ていた。

 彼女たちは、俺の想像を遙かに超えた存在だったのだ。



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