「モノマネだけの無能野郎は追放だ!」と、勇者パーティーをクビになった【模倣】スキル持ちの俺は、最強種のヒロインたちの能力を模倣して、気付いたら魔王を倒していた。

藤川未来(ふじかわ みらい)

第1話 勇者ハーゲンのパーティーから追放される。 

「カイン、本日、この場を持って、お前を俺たちのパーティーから追放する」


 勇者ハーゲンが、俺に冷たく宣告した。


 俺、カイン=ベルマーは、動揺してその場に立ち尽くした。


 やがて、胸の奥に、怒りと悲しみが混ざり合った感情が湧いた。


宿屋の室内には、勇者ハーゲンのパーティーメンバーが、勢揃(せいぞろ)いしていた。


 金髪碧眼の端正な美男子が、勇者ハーゲン。

 生まれながらに『剣聖』の能力を持つ、神々に祝福された英雄だ。


 短髪に隻眼の巨漢が、戦士グスタフ。

 卓抜した攻撃力と防御力を備えた無双の戦士だ。


 茶色い髪と瞳の少女が、神官のアリア。

 治癒魔法のエキスパートで、神官としては最高峰と謳われている。


 褐色の髪と瞳をした少女は、魔導師ベアトリス。

 多彩な魔法を操る天才魔導師だ。


 全員、一騎当千の猛者で、まさに勇者のパーティーに相応しい実力者たちだ。


 俺の身体は追放を宣告されたショックで震えていた。

 やがて、激発しそうになる感情を抑えて、口を開く。


「なぜ、俺が追放されるんだ?」

「分からないのか? モノマネだけの無能野郎は、必要ないという事だ」


 勇者ハーゲンが、端正な顔に冷笑を浮かべた。

 あまりの事に、俺は思わず息を呑んだ。


 モノマネだけの無能野郎……。


 こんな暴言を浴びせられるとは思わなかった。


 俺の職業は模倣師もほうしだ。

 味方の能力を模倣コピーする事ができる。


 俺は、勇者ハーゲンの剣聖の能力。

 戦士グスタフの攻撃力と防御力。

 神官アリアの治癒魔法。

 魔導師ベアトリスの多彩な魔法。

 その全てを模倣コピーした。


 そして、その力で、この勇者パーティーに少なからず貢献して来たはずだ。


「……俺の能力を最初は、全員、褒めていた筈だ。忘れたのか?」


俺が言う。


「最初はな。だが、期待外れだ。所詮は模倣コピー。俺たちの4割程度しか、能力を発揮できないではないか」


 戦士グスタフが、冷たく言い放つ。


 俺は言葉に詰まった。


 確かにグスタフの言うとおり、俺の『模倣コピー』は、対象者の能力の3割から4割程度しか会得できない。


 彼らの戦闘能力を100とすると、俺はせいぜい40程度しかない。


「そもそもだ……」


 勇者ハーゲンは、俺に近づくと、俺の胸に指をつきつけた。


「お前は戦闘中に、後ろでコソコソと俺たちの背に隠れて、ヤジを飛ばす事が多かったよな?」

「あれはヤジではなく、戦闘の指示だ。魔物との戦いでは戦略や戦術がないと……」

「俺たちにお前ごときの指示は要らん! 何様のつもりだ!」


 グスタフが怒鳴る。

 俺は吐息を出して首をふる。

 完全に感情論になっている。何を言っても通じなさそうだ。


「はっきり言うが、俺はお前の能力自体が気に食わん! 俺たちの能力を盗むような真似をしおって!」


 戦士グスタフが、青筋を立てて拳で机を叩く。


「グスタフ、彼の能力は盗むのではなく、『模倣コピー』ですよ~。まあ、似たようなものですけどぉ~」


 神官アリアが肩をすくめて、侮蔑の視線を俺に送る。

 俺は怒りで拳を握りしめた。

 

 俺は、模倣コピーする時は、事前にちゃんと許可を取っていた。


 そして、最初は俺が、自分たちの能力をコピーして、パーティーに貢献したのを称賛していたくせに……。


「まあ、雑用係としてはソコソコ役に立ったけどさア。ハッキリ言ってもう邪魔なんだよ、お前は」


 魔導師ベアトリスが、褐色の髪を弄りながら、冷笑する。


 雑用係だと……。


 俺はこいつらに、そんな風に思われていたのか?

 補給、財務処理、事務処理、それに食事係。


 それらは俺が全部引き受けていた。


 こいつらが、勇者パーティーであり、いつか魔王を倒して、世界を平和にすると信じていたからだ。


 足りないながらも俺は、こいつらと共に平和に貢献できる事に誇りを持っていた。


 だが、その誇りが今、完全に砕け散った。


「もう理解できただろう? お前を必要とする奴は、ここには一人もいないんだよ」


 勇者ハーゲンが、歪んだ笑いを浮かべた。


 その醜悪な笑みに同調するかのように、戦士グスタフ、神官アリア、魔導師ベアトリスが、俺に嘲笑を浴びせてくる。


 心が急速に冷えてきた。


 怒りよりも虚しさが、俺の胸を埋めていく。


 そして、こいつらとの間にあった縁が切れたのを感じた。


 こいつらとは、もう仲間ではいられない。


 いや、もしかしたら、こいつらとは最初から仲間ではなかったのかも知れない……。


 俺は目を閉じ、やがて開いた。


「……分かった」 


 俺は勇者ハーゲンに正面から向き合った。


「俺なりに魔王を倒すために懸命に働いてきたつもりだ。だが、互いにもう限界のようだな。俺はこのパーティーを辞める」


 俺が宣言すると、勇者ハーゲンは頷いた。


「それで良い。的確な判断だ。まあ、安心しろ。魔王は勇者である俺が倒す。お前は故郷の両親のもとに帰って、農民に戻れば良い……。おっと……」


 勇者ハーゲンは、碧眼に邪悪な光を宿した。


「お前の故郷は魔物に滅ぼされたんだったな。そして、両親も魔物に殺されたんだっけ。悪い事を言ったな。うっかり忘れていたよ」


 勇者ハーゲンの悪辣な言葉に俺は激怒した。

 思わず剣の柄に手をかけそうになる。


 だが、鬼のような自制心でそれを我慢した。


 こいつは勇者だ。


 いつか魔王を倒す男。


 世界に平和をもたらす英雄。


 そして、まがりなりにも仲間だった男だ。


 俺が闘う相手は魔王軍だ。こいつではない。

 俺は呼吸して、心身を落ち着かせると口を開いた。


「じゃあな。もうお前らと会うことはない」


 俺は背を向けた。


「さっさと出て行け。不愉快だ」


戦士グスタフの野太い声が響く。


「腰抜けですねぇ~。両親の死を嘲弄されても闘う事もしないとは私なら決闘を申し込みますが……」


 神官アリアが、悪罵を放つ。


「プライドがねェのよ。まあ、所詮、カインなんてあんな程度という事ね」


  魔導師ベアトリスが、嘲笑する。

 悪罵が、俺の背に響いた。

 

俺はこんな奴らを仲間として支えていたのか……。

 心に、裂けるような痛みが走る。


 俺は、ドアを閉めた。

 

 

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