第10話 噂

 恵人けいと瑞葉みずはを駅まで送った。慈代やすよの姿はどこにもなかった。


「送ってくれてありがとうございます」

「気を付けてね」

 瑞葉の背中を見送る。


 慈代に対して何を言っていいかわからない。慈代に電話するのが怖かった。怖かったが、何も話さないことに耐えられなかった。


 恵人は慈代に電話をしてみた……しかし、つながらなかった。


 結局、それから数日間、慈代とは連絡がつかないままだった。

 怒っているのかな……怒ってたよな……


 瑞葉にも連絡できなかった。

 連絡してあげるべきだろう……と思ったが、掛けてあげる言葉が見つからなかった。


 そして数日後、同級生である大島良太から電話がかかってきた。


「恵人、おまえ瑞葉ちゃんとキスしたって?」

「え、なんで知ってるの」


「慈代さんに見つかったんだって?」

「そんなことまで」

「いや瑞葉ちゃんが、そのことで悩んで同級生の芽衣めいちゃんに相談したみたいで……芽衣ちゃんも悪気はなかったんだろうけど、別の子に言って、演劇部中に広がったみたいだよ」


「本当かよ」


「瑞葉ちゃん、大丈夫かな……」


「まあ、大丈夫みたい。気になって、おれも瑞葉ちゃんに電話したんだけど、その噂のことより、慈代さんに会うのが怖いらしい」


「瑞葉ちゃん来るかな部活」

「来ると思うよ。きちんと慈代さんに謝りたいって言ってたし」


「瑞葉ちゃんより……三年生の方が、なんかざわついてるみたいだよ」


「え、そうなの。なんか気まずいなあ。雅也まさやさんとか?」


「まあ、雅也まさやさんは、そうでもないみたいだけど、晴美はるみさんとか」


「え、晴美はるみさん!」


「だって、慈代さんの親友じゃん」


「恵人……あんた死ぬよ」


「……」


「いや冗談だよ。でも、なんか一年生女子は瑞葉ちゃんに『慈代さんに負けるな!』みたいになってて。三年生女子の間では『瑞葉ぁ? 一年生の分際で』みたいな……いや、これは噂だけどね……二年生女子の」


「なんだよ、それ」


 そして数日後、演劇部の練習の日が来た。

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