【桃生弥恵】( 2 )
※ 8月20日14時40分ごろ ※
店員である桃生弥恵に、空いてる窓際のテーブル席に案内され、翡翠は悠里と瑠璃と共に座った。
ソファー型の椅子が対の、4人用テーブル席だ。
瑠璃は窓際、その隣に翡翠。反対側の席に、悠里がひとりで座った。
瑠璃がメニューを見ながらうんうんと唸っている。
何か複数食べたいと思う物がある様子。
それに気づいた悠里が瑠璃に声をかける。
「瑠璃、迷っているのはどれだ?」
すると瑠璃は、メニューに載っている写真を、小さな指先で指してみせた。
「んとね、チョコいっぱいのパフェとね、フワフワおっきいパンケーキとね、果物いっぱいのワッフルが食べたいの」
バナナやアイスクリームがたくさん乗ったチョコレートパフェ。
バターとメイプルシロップがトッピングされた、分厚い2枚のパンケーキ。
イチゴ、ブルーベリー、ラズベリーの果肉と、ソースが掛けられ、生クリームがたっぷりのったワッフル。
食いしん坊な瑠璃は、3つのスイーツ、どれも食べたいようだ。
「3つを1人で……は、今の瑠璃には厳しそうだな」
瑠璃は5歳だが、大人1人前はペロリと平らげる。
健啖家の片鱗をみせてはいるものの、まだまだ体は小さい。
スイーツは、通常の食事に比べれば少なめだが、それでも瑠璃1人で3つは難しそうだ。
けれど。
「全部頼めばいいんじゃね? 俺はなんでもいいし、瑠璃が残したの食べるよ」
瑠璃が食べきれなければ、自分が食べればよい事だと翡翠は思う。
「お前はそれで本当にいいのか?」
悠里が少し心配そうな顔で問う。
翡翠に我慢を強いているのではないかと、心配しているように見えた。
翡翠としては、我慢しているつもりは全くないのだが。
「いいよ、なんでも。その代わり、PCパーツ買ってよ。パソコンをカスタムしたいんだよね」
瑠璃の面倒を見る代わりに、対価をいただく。翡翠が瑠璃の子守り役を率先するのはこの為だ。
――それ以外の理由もあるのだが。
翡翠は、ちらりと隣でご機嫌顔の瑠璃を見た。
食べたいスイーツを全部頼めると知って、にこにこ笑っている。
――それ以外の理由に関しては、恥ずかしいので口にするつもりはない。けれど、母や兄にはバレて居るだろう。
「ちゃっかりしてるな」
悠里が眉を下げて肩をすくめる。
ちゃっかりしているのは、母ゆずりなんだが……と、思う翡翠だったが、今は言わないことにした。
「……まあ……いいだろう」
翡翠が欲しがったものの値段に予測はついているようだが、その事に言及することも無く、悠里は了承する。
日頃から、瑠璃の面倒をみていた事も、おねだり成功の一助ではあったと思う。
後日、PCパーツショップへ行くのが今から楽しみになる翡翠だった。
間もなく、悠里がカフェバーの店員を呼んで注文をした。
しばらく待つと、最初に飲み物が運ばれて来る。
琥珀はジンジャーエール、瑠璃はアップルジュース、悠里はホットコーヒーという具合だ。
それからすぐに、瑠璃が待ち望んだスイーツが運ばれてきた。
「わぁー、美味しそうー!」
嬉々として目を輝かせる瑠璃。それでも、約束を守って、店内に響くような大きな声ではない所が偉い。
嬉しそうな瑠璃の頭を、翡翠は撫でてやる。
すると、撫でられた事がお気に召したのか、瑠璃はさらにご機嫌だ。
「好きなだけ食べるといい」
翡翠と瑠璃に、優しく笑顔を向ける悠里。
笑顔で瑠璃が頷いた。
「うん、食べるー! いただきます!」
「……いただきます」
翡翠も食前の挨拶を口にして、運ばれてきたスイーツに、手をつける事にした。
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