――浮気調査の依頼――
【浮気調査1日目】( 1 )
※ 8月12日12時すぎ ※
繁華街の一角にある、カフェ。カップル人気で有名なその店は、昼のランチタイムもあって、喧騒に満ち溢れている。
外は猛暑で照りつける太陽に辟易とするくらいだが、カフェの中は空調でとても涼やかだ。
そんなカフェの片隅で、あかねは琥珀と共に仕事の真っ最中。
視界の隅に、今回のターゲットである女性の姿を捉え、会話する2人。
「探偵の仕事って……地味だよね……」
冷たいカフェラテをストロー越しに口に含みながら、あかねがぽつりと呟いた。
「目立たず、地道にやるのが、探偵の仕事ですよ」
叱るわけでもなく、諭すわけでもなく、琥珀がそんな言葉を返す。
実際、琥珀は地味を装うのが上手い。
あの印象的な金眼は、カラーコンタクトで黒に変え、服装も悪目立ちしない。首に青いラインの入った白いポロシャツにカーキのスラックスだ。
あとは、イケメンじゃなければ尚良しだが、母親の遺伝子が遺伝子なので、それは無理な話。
ちなみにあかねは、いつも通り。白いTシャツの上から、UVカット効果のある黒のカーディガンとネイビーのハーフパンツ。これで十分目立たない。
話が逸れたが。
「まあ、それはそう……」
地味にこっそり、調査をし結果をまとめ報告する。これが探偵の仕事だ。
「悠里みたいに警察に頼られて事件解決なんて話は、そうそうにない事ですからね」
警察に捜査協力し、事件を解決する、という仕事は本来、探偵の仕事内容では無いのである。
「ですが、困ってる人の助けになる仕事ではありますよ。さ、お仕事に集中しましょうね」
まるで妹に聞かせるような琥珀の言葉に、少しだけ引っかかりを覚えたあかねだが、言っている言葉に間違いはない。
「うん」
と、素直に頷き、調査対象に再び注意を向けた。
カフェの片隅から、仲良さげな男女の様子をみつつ、怪しい動きと悟られないよう、スマートフォンを巧みに使って2人の写真や動画をを隠し撮り。
最近のスマートフォンは、搭載されたカメラレンズの精度が高く、画質も良いために重宝する。
女は、可愛らしく容姿で、メイクは厚すぎず薄すぎず。この猛暑によくぞ取れないものだと感心するほど。ブラウンの髪を綺麗に整え、ブランド物の、胸元が大きく開いたワンピースを着ている。
一方の男は、紺のTシャツとストーンウォッシュブルーのダメージジーンズ。ゴテゴテとしたシルバーアクセサリーを身につけ、いかにもチャラついた印象だ。
「あの、一緒にいる人が浮気相手っぽそうよね」
スマートフォンで何かを調べるふりをして、仲良さげに昼食をとるカップルにレンズを向けるあかね。
お互いの皿にある食事を食べさせあったり、傍目からは、恋人同士のようだ。
「さあ、どうでしょう。カフェで食事する程度ではなんとも言えません」
カップルでなくとも、お互いの皿のものを食べさせる可能性もないとは言いきれないのが、人間というもの。さらに言えば、浮気確定の証拠にもならない。
「ま、このまま彼女の尾行を続ければ、自ずとわかるかぁ」
「そうですね。」
琥珀は、調査対象の女性を一瞥すると、こくりと頷いた。
それから様子を見ること暫く。2人は食事を終えた様で、席を立ち、会計へと連れ立ってゆく。
あかねも琥珀とともに、偶然を装って、会計へ。
外へ出てゆく調査対象を、出入口が混まないよう配慮する振りをして、あかねが先に追いかける。
少し離れた場所から、2人を尾行し、会計を終わらせた琥珀が後に合流するという連携で、調査を続けてゆく。
猛暑の昼下がり。
日差しが照りつけ、一気に体が熱を帯びる。
おかげで、帽子をかぶる2人組のカップルが居ても、なんら違和感はない。
背広姿のサラリーマンですら、日傘を使っているくらいだ。
炎天下の中、それでも人の往来があるのが繁華街だ。
調査対象を見失わないよう、歩きながら、あかねはふと疑問を口にした。
「ところでさ、この依頼受けた時の様子ってどんな感じだったの?」
今回の浮気調査依頼を受けた時、あかねは休みの日であった為、その場に居なかったのだ。その後、依頼についての簡単な説明は受けたが、依頼時の話をしっかりとは聞いていなかった。
所長である悠里と共に、依頼人と面会したのは琥珀だ。
だからこの際、琥珀に聞いてしまおうと考えたのだった。
「……それがちょっと不思議でありまして……」
琥珀の反応はなんとも微妙なもので。
なんだか、疑問がある様子だ。
「不思議?」
「はい」
あかねの言葉に頷き、琥珀はその時の事をぽつりぽつりと話し始めた。
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