つまらない事件

黒染

つまらない事件

 男がいた。男は客のまばらな映画館でさほど印象に残らない話題作を見終わったところだ。さて帰ろうかという時に、近くにいた老人が何やらぶつぶつと話しているのを耳にする。

 その時前方の死角になったところより話し声が聞こえたかと思うと爆竹の破裂するような音がして、やんだ。すると老人が「今のこの体でどこまでやれるか」というようなことをつぶやいたかと思うと、階段から身を乗り出し飛び降りた。

 次の瞬間、また同じ破裂音がする。

 

 ここで男は『もしかしてこの音は銃声なのでは?』ということに思い当たった。ザワつく館内。しかし、犯人と思しき男が何やら意味の分からない、つまらない冗談のようなことを言うと、何故か前の席の女たちがクスクスと笑った後、再び平穏を取り戻した。いや、むしろ談笑すら聞こえてくる。

 流石にこれはおかしい、と疑問に感じる男。それから、推定犯人とは別の複数の男の声とガタン!という物音がした後に、銃声が何発か響いてまた静かになる。今度はザワつきもしない。男はあまりに理不尽で不可思議な事象に、物陰で震えるばかりで身動きが取れない。


 しばらく時間が経ち、ようやく動けるようになった男がシアターを出ると、たまたま知り合いの記者と出くわした。事情を説明し現場に連れて行くが、しかし、どうにもリアクションが薄い。その後、到着した警察と記者が何やら話をしていたが、どういうわけか二人して現場を離れてエレベーターに乗り込んでいった。


 男は怪訝に思い、問いただすべく階段を駆け上がって彼らに合流しようとする。

 だがその時、後ろから「たまに効きが悪いヤツがいるんだよなぁ」という声が聞こえた。

 振り返ろうとするも、銃声。これですべてが終わった。






「どうでもいい事件だったろ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

つまらない事件 黒染 @black-paint

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ