ほんとうのわたし
@3tamaria
ほんとうのわたし
整形はファッションだ。
医学が進歩した今、顔を変えることなど容易だ。お金を払えばステキな容姿に変えられる。私はそんな時代に生まれることができてとても、とっても幸せだ。
最初に変えたのは鼻。19歳の時。彼氏に「あおいの鼻ってなんかべちゃっとしてるよな。そこが可愛いのではあるけども。」と言われてそこから気になって気になって仕方がなかったから。変えた後何故か彼氏は離れていったけど、私はどこか理想の自分に近付けた気がして嬉しかった。
そこからはもう止まらなかった。どんどんお金を注ぎ込んでいった。目、鼻、唇、輪郭、お腹の贅肉、髪だって染めた。就職しても給料のほとんどは整形に使っていたし、母親に渡されていた仕送りだって切り詰めて使っていった。理想の自分のためと思うと、悪い気はしなかった。実際自分の顔が理想に近付くのがわかるので、生活で辛く思うこともなかった。順風満帆な人生だと思った。
でも、ある日実家に帰ったら、親に泣かれてしまった。泣きながら
「あぁ、神様。どうか娘を返して下さい。なんでもいたします。どうか、どうか娘をこんな姿になんかさせないでください。私の可愛い娘を…」
と言われた。なんだか落ち着かないのでトイレに行って深呼吸をした。少しして落ち着いて、鏡を見てみた。絶句した。鏡に中学生の、汚らしくシワシミまみれ、ボサボサの髪をした人が写っていた。それは私だった。
私は中学校時代、いじめられていた。みすぼらしいと。クラスの綺麗な女子に言われて何も言い返せなかった。そんなときはいつもトイレに篭った。何故か小さな時から焦るとトイレに行ってしまうという癖があった。そんな癖を持った自分が嫌いだった。だが中学生時代、トイレもひとりにしてくれない。外から罵詈雑言を浴びせられたり、上から水をかけられたりして気が気じゃなかった。私は汚い自分を妬み、こんな姿に産んだお母さんを恨んだことだってあった。
その時は気のせいだと思うようにした。絶対見間違いだと、思うようにした。そうしなきゃやってけなかった。フラフラとした足でなんとか帰った。帰ってもう一度鏡を見てみたら本当の私がいてホッとした。疲れているのだと、その日から早寝を心がけた。
ある日、同窓会があった。中学の。あの子達も来ていた。私をいじめてた子達。でも私は自信満々だった。綺麗になった私を見て、あの子達は何を思うだろう。美しさを妬むだろうか。それとも変わったねと褒めてくれるだろうか。どっちでも良いから私を見てほしい一心で向かった。でも妬まれることも褒められることも無かった。私が「久しぶり」と言うと、いじめていた子達だけじゃなくほぼみんなが怪訝そうに「え…?誰?」と言った。
急に吐き気が込み上げてきた。トイレに急いだ。まだ何も食べていないのに体が空っぽになってしまうんじゃないかと言うくらい吐いた。落ち着くまでそこにいた。落ち着くことはできなかったけど。私は私じゃなくて他の誰かさんになってしまったのかもしれない。そうだ、と思った。鏡を見れば良い。鏡は真実しか写さない。あのとき映ったものなんて忘れていた。真実を確かめたかったのだ。そのとき映ったのは私だった。紛れもないそのまんまの私。産まれてすぐの何も知らない純粋な笑みを浮かべている、中学生時代の私。
「やめて!もうやめて!」
「ねぇねぇ、あの子。あおいちゃん。死んじゃったんだって。」
「ね。自殺だって聞いたけど。」
「この前の同窓会にも来てなかったし、どうしたんだろうね」
中学生の私は遺影でもにこやかに笑っていた。
ほんとうのわたし @3tamaria
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます