風の流れる先へ

あおい

第1話

桜の舞う木の下で少女は一人一点を見つめていた。視線の先には手を繋いで歩く親子。四方を海で囲まれた小さな島で彼女は一人だった。物心ついたときから親も兄弟もいなかった。ただ、島の人たちが交代で彼女の面倒を見ていた。周りの人は優しくしてくれた。見かければ声をかけてくれたし、食事に招待してくれもした。ついさっきもお花見に誘われたが彼女は首を横に振るだけだった。気を遣わせないように秘密の場所に逃げ込んだ。ここは誰も知らない場所。一本だけある桜の木の下が彼女の居場所だった。

 心地よい風が彼女の髪を撫でる。うとうとしていると昨日聞いた話を思い出した。

「島を流れるこの風はね、人の願いを運んでいるんだよ。この風の行き着く先には神様がいてみんなの願いを聞いているんだ」そう言うとお婆さんは少女の方を見て「あんたの願いもきっと聞いてくれているよ」と言った。

風が強くなる。少女は仕方なく体を起こした。流れる先に目を向ける。

この島の中心にある一番高い山へ向かって歩き出した。

少女の足取りは軽かった。たどり着けるかと言う不安はなく、きっと世界は変わる自分の想いは音になる。形になる。意志になる。そんな希望に満ちていた。

 きっと大切にするから、自分の想いを形にするから、そう強く思いながら少女は願った。

      「わたしに言葉をください」

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風の流れる先へ あおい @aoiyumeka

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