第44話 お出かけ準備
玲と恋人になった。
そのことはまず妹の優に伝えて、それから他の家族たちへ。その後、友人の立花さんや如月さんに報告することになった。
本当は『聞かれるまで言わない』だとか、『もう少し待ってから伝える』なんてことを考えていたんだけれど、ほぼ同棲している状態だし、俺の普段の雰囲気で察してしまっている様子だったので、観念して白状した。
立花さんにいたっては、『え? 今更?』なんてことを言っていた。
どうやら、彼女的にはもうほぼ付き合っているような状態だったから、報告自体があまり意味をなさなかったようだ。
閑話休題。
「あー、市之瀬くんに脱がされなくてよかった」
「あのなぁ、俺は一言も彩を脱がしたいだなんて言ってないし、お前が勝手に言って勝手に自爆してただけだからな? あと声もう少し小さくしてくれ。聞かれたらマズい」
俺の学校での生活が終わってしまうだろ。
――昼休み。
普段はひとりでもそもそと昼食をとっている俺の元へ、彩と優がやってきた。
パッと見た人に勘違いしないでもらいたいのだが、俺がいつもひとりなのは別にいじめとか受けているわけじゃない。めちゃくちゃ仲がいい友人がいないだけで、普通にクラスメイトと会話はする。
そもそもカースト上位っぽい優と一緒に登下校しているのだから、あからさまに避けられたりはしないだろう。虎の威を借りて何が悪い。
「あの時は面白かったわね、彩、どんどん墓穴を掘っていくんだもの」
「わかってたなら止めてよ~」
「だって彩、私も信用してなかったじゃない。その罰よ」
「うぐっ……」
最もな指摘に声を詰まらせる彩。話から逃げるように菓子パンを頬張った彼女は、もぐもぐと口を動かしながらこちらを見る。ごくりと飲み込んでから、再度口を開いた。
「そういえば、もう玲さんと外出はしてみたの?」
「いや、まだだな。今日家に帰ってから出るつもり」
「へぇ~、うまくいくといいね。――ね、お母さん」
“そうね、玲ちゃんなら大丈夫だと思うわ”
夏美さんが言った言葉を、そのまま彩に伝える。グループで固まって昼食をとっているとはいえ、教室に人がいないわけではないので、お互いに小声で。
俺の言葉を聞いた彩が、ぷっと噴き出した。なにわろてんねん。
「こ、言葉遣いまで真似してくれなくてもいいんだよ?」
笑いをこらえながら、彩がそんなことを言ってくる。
「うるせー、復唱するだけのほうが楽なんだよ」
わざわざ自分の言葉になおすのも面倒くさいんだよ。というか、俺が女性っぽい言葉を使うのはこれが初めてじゃないだろうに。
すでに聞きなれている優は、苦笑するだけで特に何も言ってこない。彩も彼女とおなじように早く慣れてほしいもんだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
学校が終わり、家に帰ってきた。
玲は死後初めてのお出かけということで、敷地ギリギリのところで俺の帰りを待っており、その後ずっと俺にまとわりついてきていた。可愛い。
ちなみに彼女は、お出迎えのために敷地の外に出てみようと思ったらしいが、残念ながら外には出られなかったらしい。このあたり、判定が微妙だ。
「んー……玲も制服だし、俺も別に着替える必要はないか」
“いいですね! 制服デートってやってみたかったんですよ~”
「行先はスーパーだけどな」
そして当たり前のように『デート』という単語を使ってくれることが、ちょっと嬉しかったりした。まぁ恋人になったのだから、これが普通なのかもしれないが。
いや、やっぱりスーパーに行くことを『デート』と称するのは少し違う気がするけど。
「今日の晩御飯は何にするつもり?」
“親子丼とかどうですか? 前、食べたいって言ってましたよね?”
「おー、たしかに言った気がする。よく覚えてたな」
“す、好きな人のことですもん!”
玲は恥ずかしそうにそう言うと、俺の背後に回ってぺちぺちと背中を叩く。照れ隠しをしているらしい。心の声は『言わせんなよ恥ずかしい』みたいな感じだろうか。
俺の料理スキルも玲のおかげで少しずつ上達してきており、包丁の扱いも慣れてきた。わりと主夫力が高まっているかもしれないなぁ。
そんなことを考えていると、玲が俺の背中にしがみついてきた。足を俺の身体に巻き付けて、おんぶの姿勢になる。
「これで移動したいの?」
“はい! 今の私、そういう気分です! 帰りは荷物がありますし、それに幽霊に襲われたらマズいので”
「襲ってくる幽霊なんていないんだけどなぁ」
そして玲の胸にある二つの柔らかい物質が、これでもかというぐらいに押し付けられているのだけど。最高かよ。
しかもそれでいて彼女の重さはゼロに等しいのだから、本当に何も言うことはない。帰りは、手を繋いで帰りたいところだけども。
“お財布持ちました? スマホも忘れてないですか?”
「――ふふっ、大丈夫大丈夫。万が一なにか忘れても取りに帰ればいいだけだしな」
遠足でも行くのかという玲のテンションが可愛くて、思わず笑ってしまった。
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