美少女JK(享年16歳)と同じ屋根の下~俺だけが見えて触れる女子高生はうるさ可愛い~
心音ゆるり
第1話 家賃一万円の優良物件 JK憑き
駅から徒歩十分の賃貸住宅。
近所には二十四時間営業のスーパーがあり、コンビニもあり、間取りは2LDK。この近所で同様の条件の物件を調べてみると、大抵八万から十万円ぐらいが相場だった。
そんな物件が、家賃一万円である。やったね! お買い得だよ!
いやそんなわけねぇだろ、と何度も思った。スーパーのタイムセールよりもはっちゃけている割引なのだから、あからさまに不気味だ。というか絶対なにかあるだろ。
まぁそれは予想通り。というか、予定通り。
俺が契約したこのアパートには、どうやら享年十六歳の女子高生が住み着いているようだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
賃貸併用住宅――一階に住んでいる大家さんを含め、このアパートは合計四つの部屋で構成されている。俺が住むことになったのは、大家さんの斜め上の部屋だった。
荷ほどきを終えてから、リビングに設置したローソファの上に寝転がって、まっさらな天井を見上げる。
前に住んでいたマンションは親父のタバコのせいで黄ばんでいたから、よりピッカピカに見えるなぁ。
「家賃の節約が美味すぎるんだよなぁ」
オトンは仕事で引っ越し。旦那大好きなうちのオカンはそれに引っ付いて行ったけど、俺は転校が面倒なので地元に残った。
俺に仕送りされる金額は当初十万円の予定だったのだけど、あまりにも安い賃貸と契約したおかげで仕送りは八万円となってしまった。それでも十分すぎるけども。
これでバイトする必要もなくなったし、言うことなしだなぁ。
「……まあちょっと広すぎではあるか。掃除が大変そう」
良いものが安い値段で売ってたらそりゃ買っちゃうよ。
小さいペットボトルと、大きいペットボトル、同じ金額で売っていたらとりあえず大きいほう買っちゃうような心理だな、たぶんそんな感じ。
“やっぱり、ちょっとかっこいいかも――でも、この人なんで平気なんだろ?”
寝転がっている俺の周囲を、セーラー服の女子高生ふよふよと漂いながら、不思議そうに呟く。
白のシャツに、ピンクのリボン、そして白いラインの入ったグレーのスカート。俺が通っている高校の女子の制服と全く一緒のものを、彼女は身に着けていた。
生前は黒かったであろう髪は真っ白になっていて、ピンクのリボンでポニーテールにしている。毛先はうなじあたりまでしかない、短めのポニーテールだ。
学校に通っていた当時は、男子にめちゃくちゃモテていたんだろうなぁ。
閑話休題。
大家さん――この子の母親が、『内覧に来た人は、みんな気分が悪くなって帰ってしまう』って辛そうに言っていた。
本人に悪気はないんだろうけど、きっと無意識によそ者を拒んでいるのだろう。
どうやらこのアパートには彼女の知り合いばかりが住んでいるようだし……俺が平気なのはたぶん、こういうのに慣れているだけ。
大家さん、俺がこの部屋に決めたと言った時、嬉しそうで、それでいて寂しそうな顔をしてたんだよな。たぶん娘が成仏したと思ったんだろう。まだ普通にいるんだけど。
「……白、か。なるほどな」
スカートを履いた女子を下から見上げるのは良くないよなぁと思うけど、視界に入ってしまったのだから仕方がない。
彼女は白だ、純白だ。
ありがとうございますありがとうございますと心の中でお礼をいっておいた。
というかね、人の周りを無遠慮に飛び回り過ぎなんだよこの子。だから俺は悪くない。そういうことにしておいてくださいね、神様。
“本当ですね! 天井が白くてとても綺麗です! 最高の賃貸住宅ですよ! いかがですか奥さん”
俺は奥さんじゃねぇよ。どっちかというと旦那さんだよ。そしてオススメされるまでもなく、もう不動産屋でオトンと一緒に契約してるから引っ越してんだよ。
まぁきっと、彼女は寂しいんだろうなぁ……だから会話のまねごとなんてことをしてるのだろう。俺はそういう霊を、これまでにもたくさん見てきたし、たくさん絡まれてきたし。
ま、それはいいとして。
年下の女子高生の下着を見続けるのも申し訳ないので、体を起こして、ソファの背もたれに体重を乗せる。これ以上見ていると、あとでバレたときが怖い。
たとえ相手が死者だとしても、俺からすれば見た目は普通の人間と大差ないしなぁ。ちょっと透けてるけども。
彼女はふよふよと俺の隣にやってきて、座るような姿勢で俺の横に浮かぶ。そして俺の肩に持たれるように体を傾けてから、
“えへへ――お仕事お疲れ様、あ・な・た――とか言っちゃって! なんちゃって! うわぁ! 恥ずかしぃっ! ひゃーっ! うひゃーっ!”
そんな風に、一人悶えていた。
彼女はリビングを縦横無尽に飛び回り、せっかく見えなくなっていたパンツをこれでもかと俺に見せつけてくる。いや、見せつけているつもりはないのだろうけど。
はっきりと聞こえているから勘弁してくれ……俺も恥ずかしいんだわ。共感性羞恥で頭がどうにかなりそう。
早いところ、彼女に真相を話さないと……俺が耐えられそうにない。
「そう言えば大家さん、もしかしたら幽霊が出るかもしれないって言ってたなぁ。怖がる必要はないとも言っていたけど、どういうことなんだろうか」
どうせなら驚かせてやろうと思いながら、適当に言葉を発してみる。
お化け屋敷のお返しってやつだ。彼女にはなんの関係もないけど。まあ幽霊仲間の連帯責任ということでなにとぞ。
“この人、独り言が多いなぁ……もしかして変な人?”
うるせぇよ。黙って聞いとけやボケ。
彼女は俺の正面に浮かんで、首を傾げている。俺は見えていることがバレないように、目線はあわさず彼女のおへそあたりに目を向けた。
「ど、どういう意味で言ったんだろうなぁ」
思わぬカウンターのせいで顔を引きつってしまったが、会話をしてもらうためにもう一度復唱する。別にこの話題じゃなくてもよかったのだけど、口数を節約するために。
“まぁ私は善良な幽霊なので悪さしませんし? なんか皆さん空気が合わないようで帰られちゃいますけど、気分的には守護霊やってますからね! もうその上位の存在の守護神と言ってしまっていいかもしれません! まぁ何もできませんけど!”
彼女は何も守護できない守護神様らしい。こんなやつに俺は『変な人』呼ばわりされてしまったのか……まことに遺憾である。あとドヤ顔すんな。
「自信満々だなぁ」
“ポジティブが長所ですからねぇ。キングオブポジティビストと呼んでも構いませんよ?”
年相応の胸を張って、腰に手を当てて威張るポーズ。どうせ透けるなら服も透けて欲しいと思ったのはここだけの話。
「じゃあそう呼ぶことにするよ。キングオブポジビビス――ポジティビストさん」
大事なところで噛んでしまった……! だって言いづらいだろポジティビスト!
“ぷーっ、まだまだ修行が足りませ――――――え?”
彼女は呆然とした表情で、俺をマジマジと見つめて来る。
一歩分ふよふよと後退しているのを見るに、びっくりはしてくれているらしい。だが、まだ半信半疑と言ったところか。
“こ、この人……もしかして私の声が、聞こえてる……? も、も、もももし聞こえているのなら、復唱してください! どうかお願いします! では、行きますよ~……赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ!”
なんでわざわざ早口言葉でやるんだよ! 普通に会話すればいいだろ!
……こいつやっぱり変だわ。頭の螺子がちょっと緩んでそう。活舌は良いけど。
もしこのまま彼女のノリに付き合ったら、また『ぷーっ』と笑われることになってしまいそうだし、ここは手っ取り早くいかせてもらおう。
俺はソファから立ち上がり、死後、おそらく誰にも触れられなかったあろう彼女の手を握ってから、目を合わせた。ニヒルな笑みも装備して。
彼女は握られた手を見て、大きく目を見開いた。
「
美少女幽霊のぽかんとした表情が、驚愕へと変化する。そして――、
“――きぃやぁああああああああっ!? お、おば、おばけぇええええええっ!?”
彼女は俺の手を強引に振りほどき、壁をすり抜けてどこかへ飛んで行ってしまった。
「……おばけはお前だろ」
俺以外誰も――生者も死者もいなくなった部屋で、俺は苦笑しながら呟いたのだった。
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