女勇者の笑顔の為に魔術師の俺は全力で戦う

シノヤ

第1話勇者

私は勇者と呼ばれている。

いつからかそれが私の存在理由となった、幼い頃の記憶はない。

最も古い記憶は真っ赤だった、人の血と臓器、恐らく私の家族だった物……

次に覚えてるのは魔物を殺してまわっていた事、私はその時既に並の大人より強かった、剣と魔法を操り、魔物の死肉を食べ生きていた。

この頃の私は人では無かったのだろう、そんな私が人間に戻る事が出来たのは養父に出会ったからだ。

「ありがとう…助かったよ…」

神官服を着た血塗れの男が声を掛けてきた。

助けたつもりはない、ただ男の前になる転がっている魔物を殺したかっただけ。

「私はアルベルト神官をしている、君の名前は?」

「…ダイナ……」

『この強さ……もしや勇者様なのか?』

この時養父は私に勇者の可能性を見いだしていた。

「ダイナ…どうして君は危険を侵して魔物と戦う?」

どうして?考えたことも無かった。

その時過去の出来事が蘇る、そうだ!理由は一つだけあった。

「皆が笑って暮せないから……だから私が殺さないと!私の家族だった物みたいになるから!!」

涙を流しながら叫ぶ私を養父は抱きしめてくれた、血塗れで汚物な様な私を慈しみの心をもって、私が人に戻れた瞬間だった。

それからは養父の家で共に暮らし、少女時代唯一

の穏やかな日々を過ごせた。

時折魔物の襲来を聞いては倒しに行った、養父は私を止められなかった、私が勇者の可能性を否定しきれなかったからだ。

勇者とは女神イシュタルが遣わす救世主と信徒達に伝わっている。

だから本心では唯の娘として生きて欲しくとも、神官で在るがゆえに止められなかった。


「アルベルト君勇者の資質を持った女の子を保護してるようだね?」

「何のことだ?ダイナは唯の村娘で、私の養女だ」

ある日神殿から使者がやって来た、勇者の可能性がある私を確保しにきたのだ。

「娘さんの活躍は聞いている、剣と魔法を操り魔物を倒し、そして勇者たる善性を持っている、神殿にある聖剣を試す価値はある!」

「……」

「私としても話し合いですませたい」

「話し合い?対人特化の武装神官引き連れてか?」

「君次第だ」

使者の後ろに武装した神官が十名いる、私は一目見て悟った、私は対人の経験がない。

それに逆らえば父がどんな目にあうか解らない。

私は父を守る用に前に出る。

「一緒にいきます、ですので父に危害を加えないで下さい」

「ダイナ……」

「物分りの良いお子さんで助かるよ、心配はいらない父さんにも来てもらうからね、勇者でなければ直ぐに二人で帰れるよ…」

使者の男は笑みを浮かべながら言う。


私達が家に帰る事は無かった、聖剣が私を認めたのだ勇者と神官達は歓喜していたが、父は複雑な表情だった。

私達は神殿にほぼ軟禁状態だった、勇者とその養父と言うことで表向きは父は出世し、私は神殿で修行……

神殿に軟禁されて一年程して父は病気で亡くなった、いまでも最期言葉を思い出す。

「娘一人護れずに何が父親か……私はダイナに……勇者に……縋ってしまった……助けるべきはダイナだったと言うのに……」

私は父にもう充分救って貰ったと伝えた、そして勇者である自分を護ろうなどと考える者はもう現れないと思っていた、私は救う者なのだから。


ある日、無謀にも単身で魔物討伐に行かされる、理由は力を示し……王侯貴族、豪商、それらの者たちからの支援、金を引き出す為だった。

仕方がない、人は食わねば死ぬ、そして報酬無くして動かない。

指定されていた魔物はたいした事は無かった、私が帰ろうとすると魔物の叫びと衝撃波が起こった。

「誰が戦っている…」

私が現場に向かうとオーガと少年が戦っていた、魔術師のようだ少年は魔法で応戦しているが押されていた。

「下がって……」

私は剣を構え少年の前に立つ。

オーガは邪魔をされたのが気に食わなかったのか、標的を私に変えた。

向かって来るオーガをすれ違いざまに両断した、見ると少年は軽傷のようだ。

「すまねぇ…どうして俺を助けた?」

金でも要求されると思ったのかそんな事を言ってきた。

「理由は私が勇者だからだ…」

「勇者……」

少年は自分と同じ位の女が勇者と言うのが信じられないと言った様子だった。

「礼は要らないから…」

「待ってくれ、何の為に勇者何かやってるんだ?復讐とかか?」

立ち去ろうとする私に少年は尋ねる。

「人々の笑顔を護る為に」

心からの言葉だった、一番笑って欲しかった父は居ないが、それでも理由はそれだけだった。

「じゃあ、勇者の、君の笑顔は誰が護るんだ?」

「そんな人は居ないよ、必要もない」

護ろうとしてくれた父は死んだ。

「そうか……じゃあ今日の礼に俺が護ってやるよ、俺はキースだ」

「多少魔術が使えるようだけど、君、才能ないよ」

私は彼を突き放した才能云々ではない、彼が本気だったからだ。

あんな言い方をしたんだ、私を護ろうと何て考え無いだろう。

嫌われても良い、誰が私の為に犠牲になるよりはずっとましだ。








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