第51話 調略戦開始
美濃国守護代斎藤利政の腹心明智光安は,斎藤利政の指示を受け美濃国内の国衆の引き締めに動いていた。
美濃国はいまだに土岐家の名前の持つ力は侮れない。
しかし,土岐頼芸は国を捨て逃げ出し斎藤利政に実権を奪われているため,土岐家ではあるが積極的に国衆から支持を集めている訳ではなかった。
消去法で仕方なくであり,斎藤利政が守護になるなら土岐頼芸と言った程度であり,求心力に乏しい守護である。
かと言って斎藤利政を前面に出すと,いまだ顔を顰める国衆がいるのも事実であった。
そのため,特に美濃国内に強い影響力を持つ西美濃三人衆と呼ばれる三人をどうにしかしたいと動いており,その報告に稲葉山城に来ていた。
「利政様」
明智光安は稲葉山城に戻るとすぐさま斎藤利政の下にやってきた。
「光安殿。戻ったか,どうであった」
「芳しくありませんな」
明智光安の言葉に自然と眉間に皺がよる。
斎藤利政は,肘掛けに右腕を乗せ体を預けながら思わずため息をつく。
「三人は味方せぬか」
「のらりくらりとしていて,いまだにはっきりと我らに味方すると言ってくれません」
斎藤利政は,明智光安に西美濃三人衆と呼ばれる
何事においても三人が結束して動くことから,一人引き入れれば他の二人も可能と考え,三人の中で最も歳の若い稲葉良道の居城に何度も通い話をするが,全く靡く様子が見られなかった。
「三人は周辺の国衆を徐々に味方に引き入れていると噂が流れている。儂らに味方すると言っている国衆が実は敵にまわっている危険性があるぞ」
「そのことは危惧しております。ですが既に多くの噂が入り乱れて流れており,西美濃の三人以外の国衆の中で,誰が本当の味方で,誰が敵なのか,聞こえてくる噂だけでは判断できぬ事態となっております」
「クソッ・・忌々しいことだ。奴らは誰の指示で動いているのだ」
「どうやら六角定頼が動いているようで」
「土岐頼芸の正室は六角定頼の娘だったな。土岐頼芸を手駒にこの美濃を手に入れるつもりか」
「動いているのは六角のようですが,どうも違うようです」
「違うだと」
「確証はないがどうやら将軍家」
「大御所様か」
「いいえ,大御所様にここまでの力は無いでしょう。失礼な物言いですが大御所様の謀略・調略・武威は大したことはございません。六角定頼の後ろにいるのは,おそらく現将軍である足利義藤様」
「義藤様だと,まだ餓鬼ではないか」
「いえ,かなりの軍略と武威を兼ね備えた人物だともっぱらの噂」
「その噂は,細川京兆家をあっさりと撃ち倒したからであろう。細川京兆家を撃ち倒したと言っても,たまたまいくつもの偶然が重なっただけだ。まだまだ尻の青い餓鬼にすぎん。京から流れてくる噂は,実際の何倍にも大きくなって伝わって来ているだけだ。恐れる必要は無い」
「それがそうでも無いようで」
「どういうことだ」
「つい最近も,いつどこで牙を向くか分からん一向一揆を手懐けた後,播磨国を自ら軍勢を率いて短期間で制圧してみせたそうです」
「それは,単なる噂にすぎん。実際には無理だ。短期間で一国を平定なんぞできるか」
「いや,どうやら事実のようです」
「事実だと」
「商人達の話では間違いなく播磨を制圧して,姫路に巨大な城を作っていると言っています。さらに,石山本願寺の証如殿が将軍家の御所に足繁く通っていると専らの噂」
斎藤利政は明智光安の話にますます不機嫌そうな表情になる。
「将軍家が美濃に手を出してくる目的はなんだ」
「天下を再平定することらしいですな」
「はぁ?なんだそれは」
「現将軍足利義藤様は,乱世の世を嘆いておられ,この日本から戦を無くすと言っておられるとのこと」
「不可能だ・そんなことができる訳があるか」
斎藤利政は思わず語気を荒げる。
「できるできないでは無く,それを実現しようと考えている人物が将軍となっているのです」
「馬鹿げている。誰であろうと100年にも及ぶ乱世の世を終わらせることはできん」
斎藤利政は,現将軍足利義藤の理解し難い考えに,言いしれぬ不安を覚えるのであった。
ーーーーー
安藤守就・稲葉良通・桑原直元の三人は,安藤守就の居城で蒲生定秀と会っていた。
「いや〜明智殿がしつこい,しつこい。相手にするだけで疲れる」
稲葉良道が愚痴をこぼしている。
「それは,災難ですな。ですがそれは斎藤利政が,それだけ追い込まれてきているとも言えるかと思います」
蒲生定秀の言葉に頷く三人。
「蒲生殿。これからどうするのです」
「今後のことについて上様から指示を受けて参った」
「上様からですか」
蒲生定秀は,従者達に合図すると従者達が木箱を抱え前に出てきた。
「以前お渡しした3倍の銀銭でございます。調略に使っていただきたい」
「前の3倍ですと・・以前一人銀500両。その3倍・・・」
安藤守就はその金額の多さに驚く。
「上様からは,派手に調略をかけても良いとお言葉をいただいております」
「いよいよ上様も本気ということですか」
「播磨国もとりあえず片付きましたから,これから本格的に美濃国に取り掛かれることになります」
三人の顔つきが変わる。
「承知しました。美濃国衆の調略は我らにお任せください」
「上様直属の軍勢はいつでも動けるようにしております。危うい時は,城に籠り伝令をお出しください。連絡が届きしだいすぐに動かれるとのこと」
「ありがたいお言葉。すぐにでも動きましょう」
四人は,具体的にどこの国衆から切り崩していくか遅くまで相談するのであった。
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