第49話 姫路城築城
播磨国では姫路に将軍家の城を作るための工事が始まっていた。
敵対的な国衆で助命されたもの達を中心に動員されての手伝い普請である。
それだけでは不足するので,あとは日雇いで集めることになる。
将軍足利義藤は、細川藤孝・三好長慶・赤松晴政らとともに築城の様子を見て回っていた。
城はかなりの大きさになる予定だ。
将軍家の力を播磨国衆そして西国の諸大名に知らしめるためである。
それと同時に姫路の湊を将軍家で抑えておく役割も兼ねている。
築城現場では、多くの人足や領民達が働いていた。
人目を引くのは、巨石を運び込む光景だ。
人の背丈ほどの巨石を多くの丸太の上にのせ、丸太に乗った巨石を多くの人足達が動かしていく。
赤松晴政はその大きさに圧倒されていた。
「上様。まさかこの巨石を石垣に使うのですか」
「そのつもりだ。儂もこれほど大きなものを使う所は見た事がない」
「しかし、上様はどれほど大きな城を作られるのです。あのような巨石を次から次に運ばれ、さらにこの築城に取り掛かっている範囲、人足の数を考えれば、この城はかなりの大きさとなるでしょう」
赤松晴政は、築城の様子から少なくとも普通の城より、ふたまわりは大きいだろうと見ていた。
「晴政。我らの力を国衆見せつけるためには必要なものだ。さらに、周辺の諸大名達にも儂の力を見せつける意味もある」
「上様の御力を見せつけるためですか」
「そうだ。普通の城よりも大きく。一目でわかるほどの巨城であることが重要だ。その存在感で周囲を畏怖させることになる。嫌でも儂の力を意識するしかあるまい」
「なるほど、完成した後の扱いはどうなるのです」
「儂の近習のものに儂の直属である龍騎衆をつけて、交代で入れるつもりだ」
「このあとは如何いたします。備前・美作に軍勢を進めますか」
「いや、一度京に戻ろう。その間に晴政は播磨国の掌握を進めよ。備前・美作に関しては晴政にしばらく任せ様子を見ることにする」
「承知いたしました」
築城の様子を見ていた一行のもとに、備前国守護代である浦上政宗とその弟である浦上宗景が訪れた。
浦上政宗は、赤松家の筆頭家老と言われる人物である。
赤松家筆頭家老と言われるだけの力を持っていて、この浦上政宗も半ば独立勢力となりかけている赤松家の国衆の一人。
近習達が床几を急いで用意すると将軍足利義藤たちは、床几に座った。
しばらくすると、浦上政宗・宗景兄弟が将軍足利義藤の前に案内されてきた。
「備前国守護代・浦上政宗と申します。これなるは弟の浦上宗景と申します」
「浦上宗景と申します」
「将軍足利義藤である。備前守護代がわざわざ播磨国までいかなる要件で参ったのだ」
「ぜひ、上様の御尊顔を拝し奉りたく参上いたしました」
「ハハハ・・その為だけにわざわざ参ったのか」
「某は備前国守護代でございますが赤松家の家老でもございます。わざわざ上様がこの播磨国にまでおいでとなれば、参上するが筋というものでございます」
そんな浦上兄弟を赤松晴政は、少々苦々しく思っているようでその思いが表情に出ている。
将軍足利義藤はそんな赤松晴政と浦上兄弟を見ていた。
おそらく赤松晴政からしたら浦上兄弟は、面従腹背の輩と思っていることがよくわかる光景だ。
「上様には播磨国をお救いいただき感謝にたえません」
「お主も赤松家家老であるなら赤松家に従わぬ輩は成敗すべきであろう」
「力が足りず、某が至らぬばかりに上様にご迷惑をおかけして申し訳ございません。これより先は、上様には京の都にて心安らかにいていただけるように、赤松家家老の名に恥じぬように晴政様を補佐いたします」
「ホォ〜、それは心強いな」
要するに浦上政宗は儂にとっとと帰れという事だな。
自分の庭に手を出さずに京で引っ込んでいろと言いたいのだろう。
「ご安心ください。ですから上様の軍勢をわざわざ播磨国に置かずとも大丈夫でございます。それよりも畿内の安定を優先していただければ」
「クククク・・それは要らぬ心配。既に畿内は平和だ。一向一揆も儂に従うことを決め、石山本願寺は公式に表明しておる。ならば日本の隅々まで平和にすることが儂の責務。将軍としての責務だ」
「日本の隅々まででございますか」
浦上政宗が訝しむような表情をする。
「そうだ。儂は日本の隅々まで平定し直すことにしたのだ」
「日本の隅々までで・・それはいくらなんでも・・」
「いくらなんでもとは、何を言いたいのだ。できぬと言いたいのか」
「多くの大大名が独自に動いておりますれば、それを平定していくとなれば、並大抵のことではありませんぞ。西国には尼子家・大内家・大友家がございます」
「そんなことは承知しておる。敵にまわるならば討ち倒すまで。小賢しく己の利益のみを狙い、小狡く立ち回る輩に負けてやるつもりなんぞないぞ。そのような輩は全て叩き潰して進むまでだ」
「いや・・しかし・・」
将軍足利義藤の日本再平定の言葉と決意に浦上政宗は動揺を隠せなかった。
「浦上政宗。お主はどうする」
「ど・どうするとは、何を言われているのです」
「お主は、儂らの敵に回るのか、それとも・・」
「な・何を言われるのです。そのようなことは・・」
「一言言っておこう。儂の敵に回れば徹底的に叩き潰す。覚えておくことだ」
将軍足利義藤の言葉に浦上政宗は返す言葉が出てこず、初めて出会う恐ろしきものを見る思いであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます