第16話 決戦!将軍山城(2)
闇夜の麓では、密かに将軍山城を降り国衆と側衆の軍勢と合流した足利義藤が、燃え上がる将軍山城と瓜生山を見ていた。
闇夜に集結した幕府の軍勢は7千。
「いよいよ幕府御敵と朝敵に最後のトドメを刺すとするか。元常、晴員、保長。火縄銃を用意せよ。何挺用意できた」
将軍足利義藤は、細川元常、三淵晴員、服部保長らに火縄銃の用意を指示する。
火縄銃の製作を任されていた細川元常が答える。
「500挺にございます。我が細川元常と弟の三淵晴員、そして伊賀衆の服部保長殿の手の者たちで火縄銃を扱います。訓練は十分に積んでおります」
「火縄銃を用意できたら半町の距離まで近づいて、火縄銃を撃て。鉛の玉と火薬が尽きるまで撃ちまくれ。敵に容赦するな」
将軍足利義藤の指示を受け、火縄銃500挺が軍勢の前面に用意され進軍を開始する。
敵の軍勢は燃え上がる将軍山城と瓜生山の方に気を取られ、幕府軍の接近に気が付かなかった。
幕府軍が半町まで近づいた。
「撃て〜!」
将軍足利義藤の号令と同時に火縄銃500挺による一斉射撃が始まった。
闇夜の中、鳴り響く轟音。
火縄銃の銃身から噴き出す火花と煙。
溢れる火薬の匂い。
火縄銃を1発撃ち終わればすぐさま次の準備を素早く行い、すぐさま射撃。
幕府軍は火縄銃を撃ちながら少しずつ前進していく。
敵軍は既に大混乱状態となっている。
多くの将兵が攻め込んだ将軍山城と瓜生山は、山全体が火に包まれ、山全体が燃え上がっている。
あまりの火の強さに消すことも助けに入ることもできない。
どうしたらいいのかと考え込んでいるうちに、背後から見たことも聞いたこともない火縄銃で攻められ、訳もわからぬうちに多くの足軽や武将達が傷つき倒れていく。
多くの馬は、目の前で山が燃えていることで、落ち着きが無くなっているところに、聞いたこともない轟音が鳴り響きパニック状態となって暴れ始めている。
暴れた馬に蹴り飛ばされ、多くの足軽たちが倒れていく。
既に敵軍は組織的な反撃が不可能なほどに混乱を極め、多くの足軽が逃げ出し始めている。
足軽が逃げ出し始めれば、もはや立て直すことはできず敵の軍勢は崩壊していった。
三好長慶、六角定頼たちはこれ以上の戦いは無理と判断。
一斉に撤退していった。
やがて朝日が昇り、戦場であった場所が見通せるようになると、そこには夥しい数の骸が転がっているだけであった。
ーーーーー
足利義藤は、軍勢を率いて室町御所に戻ると休む間も無く家臣達の報告を受け、今後の指示を出していく。
そこに朽木稙綱が戻ってきた。
朽木稙綱に命じて細川晴元の死体を探させていた。
「上様。ただいま戻りました」
「細川晴元の亡骸は確認できたか」
「はい、確認できました。細川晴元は自ら軍勢を率いて将軍山城に攻め込んでいたため、城内にて煙に巻かれ死んでおりました」
「そうか。よく見つけてくれた。ご苦労であった。敵であっても全て丁重に弔ってやってくれ」
「承知いたしました。全ての宗門に亡骸を回収して、死者を弔うように通達を出してもよろしいでしょうか」
「分かった。それで良い。やってくれ」
「承知いたしました。直ちに通達を出します」
そこに、撤退した敵の動きを探らせていた甲賀忍びたちが報告に来た。
「鵜飼。六角定頼はどうなった」
「はっ。六角勢は半数近い兵が討たれ、残りの兵も半数以上は手傷を負っており、その状態でどうにか観音寺城に辿り着いたようです。六角定頼自身は手傷を負ってはいないとのこと」
「ならば、当面は動けんだろう。引き続き動静を探ってくれ」
「承知いたしました」
「和田惟政。三好長慶はどうなった」
「三好勢も六角同様、半数近い兵が討たれ、残りの兵も半数近くが手傷を負ってります。三好長慶自身は無傷とのこと。どうにか兵をまとめ上げて、三好勢の居城となっている摂津国越水城に向かっている途中とのこと」
「分かった。引き続き監視を続けてくれ」
「承知いたしました」
将軍足利義藤の顔に疲労の色が濃く滲むが、やらねばならんと自分を鼓舞して話しを続ける。
「細川元常」
「はっ」
「細川晴元が守護であった全て国の国衆たちに書状を送ってあるか」
「はっ。幕府御敵であり朝敵である細川京兆家の領地である、山城国・摂津国・丹波国・讃岐国・土佐国を全て召し上げ将軍家直轄領とするとの通達を出してあります」
「さらに追加で書状を出す。幕府御敵であり朝敵である細川晴元は、将軍である足利義藤が討ち取った。山城国・摂津国・丹波国・讃岐国・土佐国を全て召し上げ将軍家直轄領とすることに異論があるものは、細川晴元同様に幕府御敵・朝敵と定めて残らず討伐する。異論無きものは直ちに上洛せよ。上洛をしない者達は全て細川晴元に与するもの達と判断、残らず討伐する。との書状を山城国・摂津国・丹波国・讃岐国・土佐国の全ての国衆に送れ」
「承知いたしました。直ちに取り掛かります」
「元常」
「はっ」
「雇い入れた鍛治職人達に礼を言っておいてくれ、お前達の作った火縄銃の出来は素晴らしいものであった。我らの勝利に貢献したと伝えてくれ」
「承知いたしました。皆喜ぶでしょう」
「それと火縄銃をさらに増産してくれ」
「分かりました」
「残るは、朝廷への挨拶か」
そこに大御所足利義晴が入ってきて、義藤の前に座った。
「父上」
「義藤。此度のお前の働きは、素晴らしいものであった。お前は儂の誇りだ。いや、足利将軍家の誇りだ。長く忘れ去られていた将軍の武威を天下に示したのだ。儂は何も出来ぬまま戦乱と権力争いに翻弄され続け、それでも足掻き続けてきた。儂の出来ぬことをやってのけたのだ。自慢していいぞ、誇っていいんだぞ」
大御所足利義晴はそう言って嫡男である足利義藤をそっと抱きしめた。
「父上」
足利義藤の目からは自然と涙がこぼれ落ちていた。
「義藤。朝廷への報告は儂がやっておく。お前は休め。かなり疲労の色がはっきり見える。お前が倒れたら大変なことになる。休むことも将軍の仕事だと思え」
「ですが」
「任せよ。お前は休め、少し寝なさい。後は父がやっておく」
緊張が解けたせいかかなり体が重く感じていた。
「父上。ありがとうございます。では、よろしくお願いいたします」
将軍足利義藤は奥へと下がっていった。
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