裏世界の正義シエルさん

雪YUKI

第1話



「なんでこんな奴が存在しているんだよー!」


今の状況を簡潔に説明せよとか言われたら、恐らく問題文を消し炭にするだろう。

突然だが怪物という言葉をご存知だろうか。

怪物とは正体不明で、不快や恐怖などの念を抱かせる存在である。

怪物にも様々な形があり、ひとつに絞るのは難しい…なんて危機的状況なのにも関わらず、言葉の説明をする俺は九条鈴音高校一年生。あ、鈴音は『すずね』ではなく『りおん』だからね。


とりあえず逃げなければ!じゃないと全速力で追いかけて来る怪物に殺される!


「どうしてこうなったんだーー!」


そうだ、なぜ俺はこんなことになっているのか…



遡ること十数分前



「さっきこれをくれた人、なんか怪しいんだよなー…」


そんなことを言いながら、俺は右腕に付けているブレスレットを見た。

はぁ…いかにも異世界で魔女が被ってそうな帽子を被ってた人が急に


「お兄さん、そこのお兄さん!君、このブレスレットを買いなさい!」


とか言ってきて。いや、押しに負けた俺も俺もだよ?しかも


「いい?このブレスレットはお前さんの御守りだ。絶対に手放すんじゃないよ」


とか言ってくるし、勢い半端なくてつい俺も気後れしちゃったし。


「とりあえず付けてはいるけど、どうなるって言うんだ……うわ!」


そんなことを言った瞬間、立っていられなくなるほどの地響きが10秒ほど続いた。


「痛てて、急になんだったんだ?」


本当になんだったのだろうか、例えるなら未知なる怪物が生まれ落ちる瞬間といったところか。まさかな


「最近ハマってるラノベの読みすぎだな、さて地響きも終わったことだしそろそろ──」


立とう。と言おうとした瞬間、足が震え…いや、全身が震えているのに気がついた。


「……え、えぇ?」


なぜさっきの地響きでここまで震えているのだろうと疑問を抱いた瞬間、目の前には体長4mはありそうな。

全身が黒くて舌が2mくらい四足歩行の怪物がいたではありませんか。


「…ふぇ?」


何故こんなデカいのがいるのか、一瞬何が起きたのか理解出来ないでいると、怪物がブレスレットを見た。俺は奴の狙っているものはこれだと直感で理解した。

だから俺は腕からブレスレットを外した…したつもりだった。


「いやこのブレスレット抜けないんだけど!?どうなってるんだよ!何が御守りだ飛んだ呪物じゃないか!」


なんとそこには腕にピッタリハマってビクともしないブレスレットがありませんか。…俺は全速力で逃げ出した。直後追いかけてくる音が聞こえた。




…そうだったー!あの魔女帽子を被った人覚えとけよ!生きて帰れたら……その時、地面が爆発して俺は宙に舞った。

ビル10階分は飛んだだろうか、ああ俺はこのまま死ぬんだなと思い目を閉じた…。が、


「………ん?」


誰かに掴まれた気がした。いや、そんなはずは無いと思いつつも目を開けてみると、掴まれていた。…え?

そのまま地面に着地して俺を下ろしてくれた。

一体誰が?そんなことを思いつつ助けてくれた人を見る。


夜なのにも関わらずハッキリと分かる透き通った白色のロングヘア、海のように爽やかな青眼、人形が着ていそうな西洋感溢れる服、そして雪のように白く透明感のある肌。


その美しさは、妖精とも言われても違和感のないほどだった。天使だと言えば一番最初に出てきそうだったり、美人と検索すれば1番上に載っているだろう。


彼女は俺を降ろすと、怪物の方へ走っていった。怪物の舌が彼女に向けて伸びた寸前、宙に舞った、否、浮いたと言った方がいい。

そして怪物に向けて特大の銃をお見舞した。しかしそれは実弾ではなく、おそらく魔法で作られた様な明るい砲弾…え?魔法?それに浮遊?………。

その銃弾は怪物を中心として円状に爆ぜた。怪物は奇声をあげながら綺麗さっぱり消えてなくなった。

俺は終始現実離れした光景に目を見張っていた。


「怪我はない?」

「大丈夫です。助けて頂きありがとうございました」


そう聞かれたので俺はそう答えた。


「今の出来事について連絡が来るはずだから、その時はよろしくね」


そう言うと彼女はどこかへ行ってしまった。

今の出来事はなんだったのだろうか。大量の情報が入りすぎて思うように思考できない。今日は早く帰って体を休めよう。俺はそのまま我が家まで帰った。


翌日、いつの間にか消えているブレスレットの存在を思い出して、急いで魔女帽子の人の所へ行った。


「…なくなっている」


しかし行ってみると何も無かった。そう、何も無かったのである。

その魔女帽子の人も、その人が商売をしていたお店の中すらもぬけの殻だったのである。


俺は不気味に感じそこを後にした。



俺がその後行ったところは警視庁である。なんでも昨日あった出来事についての話があるとの事だ。

それにしてもここか…。不思議とそこと縁がある俺にとってはあまり足を踏み入れたくは無い。部屋に案内されると中にいたのは…あーうん。


「…いい加減中心人物になるのは止めてもらおうか。九条鈴音」


「いつも言っていますが意図的ではないです。あと鈴音と書いて『すずね』というのは止めてください。鈴音と書いて『りおん』と呼びます」


この金髪に緑の瞳をして、スーツが似合いそうな警察官の名はクリス・デイビス。


「今日も安定の2人ですか、なら──」

「いや、実はもう1人来ることになっている」


いつも2人だからなんか新鮮だな。そんなことを思っているとノック音が聞こえた。


「昨日ぶりだね」


入ってきたのは昨日助けて貰った白髪の女性だ。

そういえば『その時はよろしくね』とか言っていなような…あの時は頭が回っていなかったから忘れていた。


「さて、ではその前に事情聴取を─」

「その前に一ついいか?」


クリスの話を遮ってしまい睨まれたが、そんなことより

も気になることがある。


「貴方、名前は?」

「シエル」


それがシエルと初めてあった出来事だ。


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