第12話 亜人が協力する場合、価値観によって乖離が起こる可能性が高い

 あれから一晩が経った。心なしかスッキリと目覚めることができた。雲原さんの魂を食べたから寝覚が良かったのかな。なんて思いながら雲原さんに挨拶をする。


「おはようございます、雲原さん」

「おはようございます、雹ヶ峰さん」


 なんともまぁ、昨晩のことがなかったかのように挨拶を交わすことができた。

 雲原さんはわたしのことを体調不良だと勘違いしていたようだから助かったけど、もし窓を開けなかったらセナちゃんと同じことをしていたんだなと、結果論で判断してしまった。


 雲原さんは扉が開いているかを確認してくれた。


「あ、開いてますよ! セナさん! なんで閉じ込めたんですかー!!」


 雲原さんは廊下を早歩きで進んでセナちゃんに問いかけるようにして言った。

 わたしもそれに着いていきながらどう締めてやろうか考えてみたりもする。


「セナさん!」

「……申し訳ない。本当に、いやさ?」

「そうじゃないんですよ! 友人ならわかるでしょ、雹ヶ峰さんが空気を循環させたり、空気清浄機に頼らないと眠れないっていうのは!」


 あちゃー、まだ勘違いしてるね。瘴気が素肌についちゃったからなのが原因なんだけどね。空気清浄機だって備え付けられてそのまま捨てられるってだけだし、ロボット掃除機とかも瘴気を吸い取るためにあるから、そんな肺が弱いってわけじゃない。


 まあでも、そういうことにしておこう。

 そうしないと他人の恋人に欲情した最低なヤツになっちゃうだけだから。


 なんて自己解決していると、セナちゃんがわたしに近づいて来た。


「そうだったの!? ごめん、本当にごめんなさい!」

「別にいいよ、それよりも、何かわかった気がする、雲原さんのことが」


 一晩一緒になってみてわかったのは、

 とにかく良くも悪くも真面目であったこと。

 セナちゃんが当たり屋のように誘拐したのに、命を人質にされると大学を自主退学するぐらいにはお人好しだし、今わたしの目の前にいるようにセナちゃんのためならばどう動こうともかまわない姿勢は素晴らしいほどに愚直だ。


 顔を赤らめて潤んだ目で雲原さんを見ても、ただただ献身的に看病をしてくれる。本当に素晴らしい人だ。恋とまではいかなくても尊敬できるに値する人物だ。


 そんなことをかいつまんで説明してみるとセナちゃんの表情が変わった。


「でしょー!! だからハルトくんは他の淫魔に見せたくなかったの!」

「そのくだりは昨日聞いたって、内田さんがヤバイのはわかったから」

「いよし! じゃあ朝ごはん食べたら3人で会議じゃい!」

「朝ごはんね、パンやウインナーとかあるから。流石に他人の家では……」

「ちょっとお風呂借りるね! 掃除するしタオルも敷くから!」

「……1時間ぐらいかけて掃除してよね」


 そうして始まった第2回雲原ハルトにふさわしい亜人会議。

 内容はいたって簡単、雲原さんにふさわしいと思える亜人を探すことだ。

 具体的に言うと『雲原さんに危害を加えず、なおかつセナちゃんの食事を邪魔しないように雲原さんを性の対象として見ない人』のことを指す。


「そんな都合のいい人見つかるのかなぁ……」

「見つかるって! 要はビアンな種族とか、そもそも構造的にできない種族とかをだね……」

「吸血鬼とか、ですか?」


 雲原さんはつぶやくように提案した。

 確かに吸血鬼──正確には『鬼人』というカテゴリーの中の吸血鬼──は基本的にレズビアンばかりだとされている。


「でもハルトくんはその吸血鬼に襲われたんだよね」

「えっと、はい……」

「じゃあ却下。ということで構造上できない亜人にしよう。えっと、花魔、虫魔、半人は……いやダメだ、半人は合法ロリだからやろうと思えばできる。だったら……」


 セナちゃんは指を折って数えては元に戻したりしてブツブツと自分の世界に入ってしまっていた。


「セナさんどうしましょうか」

「放置でいいです。わたしたちも貴方に合う亜人を選びましょう。よりどりみどりなんですから。そもそも初対面の人間と交わりたいほど亜人の貞操観念は悪いわけじゃありません」

「やっぱりそうですよね」

「はい、セナちゃんが淫魔なので早とちりで話が飛躍するんです。基本的にスケベなのは淫魔だけ。あとは単純に性欲が強いってだけ」


 亜人だろうが、少なくともメディアやら雑誌やらで男性を画面越しにはみることはできる。だからこそ痴情のもつれとかも頻繁に報道される今の世の中では男性だから好きになる亜人は今や少ない。


「あと考えられるとしたら……『天使』かな」


 セナちゃんが呟くように言い捨てた。


「『天使』……ですか?」

「ん、あぁ、ハルトくんは天使のことを知らないのかな? 獣の耳と尻尾を生やしていて、極楽浄土……認められると天国に行けるようになる『第七層』の亜人なんだ。天から使わされた神様に近い存在は大抵天使だね」


 海外ではリングを頭の上に浮かせていたり翼が生えていたりする亜人。

 日本では神道の方が馴染み深いのか、天使として生まれる亜人は獣耳を生やしたり、そこにいるだけで豊穣を約束する反則級まで多数に及ぶ。


いわゆる八百万の神々と呼ばれる存在。

通常の亜人ではまず太刀打ちができない雲の上、天の存在。それが『天使』。


【あとがき】

次回、第二章エピローグです。

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