第11話 悪魔は魂の質で伴侶を決める。

「……」

「……」


 とりあえず寝転がって横並びになってみたがどうにも気が収まらない。雲原さんも少しだけ呼吸を早めている。緊張しているのかな。


「──っ」


 問題は扉がつっかえ棒か何かで完全に閉じていて、空気循環が途切れ瘴気が掃除されなくなった結果、雲原さんの魂がダイレクトにわたしの中に来ているということ。


 悪魔は魂、つまりはイデアの根源を食べることで、その人間性や性質、果ては願いを叶えたり得る存在かを察する。


 瘴気はよく粒子状のサラサラしたモノだと捉えられているが、本来なら『武具』のひとつなのだ。

 悪魔の意思ひとつで粒子は固まって物体になって形になる。しかも魂を吸い取るおまけ付き。そして吸収された魂は使用者に還元されて快楽を与え、次の獲物を探すように仕向ける。


「ぅう……ひぇ……」

「ど、どうかしましたか、雹ヶ峰さん」

「ひ……ひぇ……らいじょうぶです」


 呂律が回らなくなってきた。魂の質を感じる。至って普通な素朴な人間、善でも悪でもない正義感が強いわけでもなければ耐性を利用した暴挙に出るわけでもない、そんなふうに感じ取れた。


 とても、美味しい。


 可でも不可でもない魂がとても美味しい。単純に初めて魂を食べたから頭がおかしくなっているのかもしれないし、慣れたらどうってことないのかもしれない。


「……ふぅ、ふぅ」

「ひょ、雹ヶ峰、さん?」


 少し落ち着くと、何やら邪な感情が芽生えてくる。『邪』と言っても悪魔だから邪なのは間違いではないけど、もっと食べたい、食べるためになんでもしたい。

 そんな感情がわたしの中で芽生えている。


 そうか、魂を満足するまで食べた悪魔は願いを叶える、と言うけれど、違うんだ。

 食べきれないほどの魂の質を持っている人間を引き止めるために願いを叶えるんだ!


 もし、今、ここで瘴気で作った布団を掛けたらどうなるんだろう、肌着を作って着てもらったらどうなるんだろう。交わってないからセーフ。多分そう。

 ああ、一晩寝ればわかるってそういう意味だったのかな。


 もう以前のように冷静に考えることができなくただ悶えることしかできなくなっているのを実感する。頭がふわふわする。もうすぐ『容量キャパシティ』の限界に達するのがわかる。


「と、とりあえず空気を入れ替えるので窓開けますね!」

「へ?」

「空気清浄機がどうのって多分、僕の想像で悪いんですけど体調が悪くなるんですよね、酸欠になりやすかったり、酸素濃度が足りなかったりとかで。高山病に似た感じなんじゃないですか?」

「ちがっ」


 雲原さんの声が鼓膜に響く。洗脳されているみたいだ。過呼吸気味なわたしを心配してくれているのを実感する。

 

 カラカラと窓が開く音がして、わたしはなんとか力を振り絞って瘴気を外に逃す。そして、ヨタヨタと窓付近まで移動して、呼吸を整える。


「ハァッ! ァア……」

「背中さすりますね。ゆっくり、呼吸を意識してください」

「……ありがとう、ございます」


 瘴気は研究によって発覚していることが多い。


 自身も亜人で亜人が生きやすくなるために研究を重ねているアメリカにある、

ゼノ・ヒューマン・ユニバーシティに勤めるアレックス教授は『悪魔デビル瘴気ソウル・イーターは毛穴などから放出される。だが、本人自身によってある程度の制御ができる』と語っている。


 だから、深呼吸をしながらできるだけ瘴気を押さえ込んで、それでも溢れ出た瘴気は外へと放出するように促した。


「……ふぅ。少し落ち着きました。雲原さん、ありがとうございます」

「いえ、むしろ触れても良かったかとヒヤヒヤしてましたよ」

「いいえ、安心感があって良かったです。いつもひとりなので……」

「僕で良ければ、いくらでも使ってくださいね」


 瘴気は日光に弱い。本当ならダクトを通して外層に送られるけど、ここでも時間が経てば消えるだろう。流石に、本物の太陽には負けちゃうだろうけど。


 正直窓を開ければいいなんて極限状態だったからか思いもつかなかった。雲原さんに感謝しなきゃなと思い、わたしはベッドで横になったのだった。

 雲原さんはキャリーケースから余っていた寝袋を取り出して眠りに着いた。


【あとがき】

これからもちょくちょくアレックス教授の研究成果が登場します。その際、能力や亜人の名称の英語訳がルビとして表示されます。

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