第2話 圧迫面接とか聞いてない

 閉鎖的な村だという事は道すがら兄弟から聞いていた。「余所者は入らせぬようにしておりまして」兄弟の村は近隣の村とは山一つ二つ離れているのだという。行き来もないから道もない。それでも一〇年に一度くらいの割合で迷い込んでくる者がいるのだそうだ。が、村に滞在することを許さずに、水糧食を与え近傍へ送るまでして追い返しているのだという。そこにですよ、この僕です。この冷や汗ものの雰囲気、さもありなん。でもね担架は二人でしか担げないのだからしょうがなかったんですよ。僕だって好きでこんなところにいるわけじゃないんです。

「隣領の貴き御方とお見受けするが」

そうだよね、アヤシいよね。でも、こっちからすれば変な格好は皆さんの方なんですよ。集落に辿り着いてから担架を解体して服を返してもらったが、皆さんとの差異が酷い。異世界だとしても時代物は確定だが、一体いつの頃なんだろう。

「それ、違います。本当に貴族とかじゃないんです」

上座を勧められて、どこが上座か分からず慌てふためいているのにそれはない。

「何処より参られたか?」

「…えーっと、あの山ですね」

一日かけて下ってきた峰を指す。夕日を浴びて紅く暗くなってゆく頂は驚くほど高く遠かった。あれを担架を担いで降りてきたんだよ。頑張った自分を褒めてあげたい。

「山向こうのナナツギの御方であろうか?」

「…違うと思います」

確実に違うよ。だけどさ、何て説明すれば良いのよ。ここは「召喚が成功した」「巻き添え召喚でした」とか言ってくれなきゃ困る訳。僕の方が説明が欲しいのよ。これでは僕はただの不法侵入者だ。身分制度があるようだから下手したら本当に切り捨てられる。

「何故あの峰より来られたか?何処へ参られるや?」

歓迎はされないだろうと思ってはいた。助けたコレトウからは是非にと請われたが、サジの方は余所者の僕を村へ入れる事には躊躇いがあったからだ。サジは兄を連れ帰る必要と、同中にお裾分けした炭酸飲料で懐柔されただけだ。それでも村へやって来たのは、僕ですよ!チートなしの僕なんですよ!明らかに大猪がいるような山中で過ごすよりはいいと思ったから。異世界転移だろうが時代転移だろうが、僕が僕のままではすぐにも生死にかかわる。なのに人里におりても不法侵入で糾弾、処分されかねないではないですか。大体、何故って何処って僕の方が聞きたい。長患いや事件で死んだ記憶もない。ラベンダーの香りも嗅いでないし、鏡も潜っていない。そうだよ、どうせなら僕だって剣と魔法の世界が良かった。チート有なら同じ中世でもヨーロッパ風が良かったのにぃっ。

「……お館様」

問いかけに答えることができない僕にしびれを切らせて縁側から声がかかる。お館様ってこの爺だよね…確かにほかの人たちより偉そうな雰囲気がある。そのお館様に僕はまともな返事が出来ていないわけで、広場の筵からも苛立った気配が感じられてきた。僕の胸の内など関係なくこれはヤバい。日も暮れ切って寒さを感じるほどなのに変な汗をかいている。口を湿らせるためにリュックからペットボトルを引っ張り出す。

「その方ッ!」

筵の男らが獲物を引っ掴んで飛び掛かるのと

「控えよッ!」

お館様が一括するのはほぼ同時だった。僕は、僕は死んだと思いました。目の前三〇センチに槍の穂先。半分意識が飛んだまま後ろ手をついて昏倒するのに耐えた。漏らさなかったのを褒めてほしいくらいだ。……漏らしてないぞ。……本当だぞ、いっ、いや、チビッたぐらいだ。本当だって!男等には僕がリュックから武器を取り出してお館様を害そうとしたように見えたのだと考え至ったのは暫くたってからだ。職務質問中、手は見えるところに出しておかなきゃならないのね。海外ならば射殺案件だったのよ。

「これが「こうら」か……」

お館様は僕が取り落としたペットボトルから目を上げる。

「いえ、アクエリです……って!コーラ知ってるの?」

普通に答えかけて思わず叫んだ。えええ?って、異世界気分でいたのは僕の勘違い?それならばスッゲエ恥ずかしいんですけど。いや、そうではないとすぐに気付く。スポーツドリンクとコーラの見た目の違いが分からない現代日本人はいない。お館様の言い様ではコーラの存在は知っているが、それ自体は見たこともないのだ。知っているのは、ペットボトルだ。至った考えに呆然とお館様を見やる。爺も途方に暮れたような顔で僕を眺めた。

「……其方は神人なんじゃな」

カミヒト?神人?なんですか、それ?


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