裏ボス悪役令嬢、だから何?

青空冬

第1話 プロローグ

ぼさぼさの三つ編みに、目も見えないような厚いレンズの丸眼鏡


それが、私「黒風美聡(くろかぜみさと)」だった。

クラスでも陰キャで、気弱なくせに

変なところで飛び出てくる正義感のせいで、いじめられっ子を助けてしまい

私が標的になった。

男子にキーホルダーを壊されて、女子からはありもしない噂を立てられた。

注意するだけで「調子に乗るな!」とまで言われた。

最初は影でされていたが、それはだんだんと、先生の前でも起こるようになっていた。

目の前で起きている惨状に、最初こそ先生は注意してくれたが

今となってはほとんど無視。

学校内に、私の味方なんていなかった。


いつしか私は、そんな学校に行くのが嫌で

ずっと部屋に籠るようになった。


そこで暇つぶしに、と始めたのが

「君と光の先へ」通称「キミヒカ」

主人公「レン」が、攻略対象と仲を深めながら魔王を倒すというRPGゲーム。

何よりいいのは、存在するたくさんのルート、それぞれのキャラクターに決められた壮絶な過去、そして、悪役令嬢「ヒータ」の存在だ。

闇属性を扱う彼女は、その国では不吉とされる紫色の髪をしていて

そのせいでたくさんの人から後ろ指をさされた。

それなのに好かれているレンが気にくわず、レンをいじめ始める。

しかし、攻略対象全員がヒータを侮蔑し、絶望に堕ちたヒータは闇堕ち

その結果、ヒータは裏ボスという存在になってしまう。

他にも、断罪・暗殺・戦闘中の死など

とにかく死に方のレパートリーがフル沢山。


そんなゲームの合計20を超えるルートを攻略し終え

新たなゲームを買いに行こうとしたら

たまたま引かれそうになっている同級生に出くわし

思わず体が動いてしまった。


大嫌いな同級生を助けたせいで、私の人生は、あっけなく終わってしまった。


「あなたはかわいそうですね」

…は?

目が開かない。声も出ない。

これはいったい、誰の声?

「頑張ったのに、認めてもらえなかった。最期まで、誰も味方でいてくれなかった」

そうですね。

私は心の中で同意する。

まあ、もう気にしてもいないけれど。

「だから―――」

…ん?

背筋に悪寒が走る。

なんだろう、すごく嫌な予感がする。

「あなたを、将来、誰も無視できない存在に転生させましょう」

―——は?


目が覚めると、豪華絢爛な部屋。

この部屋に、私は見覚えがあった。

(ああ、いやだ)

あの神様は、なんてことをしてくれたのだ。

(信じたくない。夢であってほしい)

化粧台の前で、私の姿を確認する。

濃い紫色の髪、血のように真っ赤な目。

私は、この顔を知っている。


私の名前は、ヒータ・レカリウル。

乙女ゲーム、「君と光の先へ」の、悪役令嬢である。

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