イミビ
若生竜夜
イミビ 1
あ、またサイレン。今夜は消防車が二台か。どこに下りてきたんだろう。
え? ああ、お山からね、下りてくるのよ。ほら、あっちの窓。見えるでしょ、連なってる山の一番高いやつ、上に火が点ってるよね。青くてきれいでしょ。
あれがねえ、下りてくるんだ。点、点、とね。ほら増えた。
一つ、二つ、三つ……連なって、だんだんと下りてくる。
そうして下りきったら、スゥーっと、道にそって青い火は走ってく。
そのうち、ヒョイとどれかの屋根に飛び移って、あっという間にその家を燃やし出すの。
なんでかは知らないよ。忌み日に山へ入ったとか、取っちゃいけないものを取ってきたとか、なんか理由があるんじゃってここらじゃ言われてるけど、全然わかんないって。
そうそう、この町やたら行き止まりが多いでしょ。古い町で、狭い盆地を埋める碁盤みたいな作りしてるくせに、実際歩いてみたら、あっちで行き止まり、こっちで行き止まり。
戦国時代に敵の侵入を防ぐためにそうしたのどうのって言われてるけどさ、嘘だよ、お城なんて無いもん。あたしは絶対別の理由だと思うんだ。ほら、スゥーっと走ってく、あれ。あの火のせいじゃないかなって。
道に迷わせたいんじゃないか、って思うんだよねえ。ちょっとでも燃やされるのから逃げられるように。どっか行けーって。……あ、また。消防車だ。結構近いね。燃えてる燃えてる。寒い中大変だ。
ええ、引越し? この家越して来たばっかじゃん。せっかくがんばって買ったのにさぁ。退治できないか、て? どうやって? お守りなんか効かないよ。怖くないのかって言われても、だってそういうもんだもん。慣れっこよ。
ごめんごめん、ほんと昔っからのものだからさぁ、子どものころからあたしにとってはこれが普通なんだよね。そ。だから言うの忘れてたの。
あー、でも、ほかの町に引っ越してもねえ、引っ越した先でやっぱりそのうち燃えるんだって。ついてきちゃうっていうか……わかるみたいなんだよね、スゥーっと走る火には。ここの住人だったのが。うふふ、そうだよ、一度でもこの町に住んだらおしまい。どこに行っても逃げられないんよ。
だからさぁ……あきらめて。あなたも一緒に燃えてよ。
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