第7話
紫が先代の巫女、霧咲 陽菜のことを思い出す時、それはいつも特別な感慨を伴っていた。陽菜は優しく、強い意志を持った人だった。彼女がこの神社を一人で守り続けた日々の努力と献身は、紫にとって大きな手本となっていた。
ある日、紫は神社の裏庭で手入れをしていた。陽菜が大切に育てた花々が咲き誇る庭は、彼女の存在を感じさせる場所だった。紫はその花々を見ながら、陽菜との思い出に浸っていた。
突然、遠くから訪問者の気配を感じた。紫は立ち上がり、参道の方へ向かって歩いていった。そこには、中年の女性が立っていた。彼女は優しい笑顔を浮かべ、紫に近づいてきた。
「こんにちは。もしかして、あなたが霧咲紫さんですか?」
紫は頷きながら挨拶を返した。
「はい、そうです。霧咲紫です。ようこそ霧咲神社へ。」
女性は微笑みを浮かべたまま、少し懐かしそうな表情をした。
「私は霧咲 陽菜の友人でした。彼女とは長い間連絡を取っていませんでしたが、どうしてもこの神社を訪れたいと思って来ました。」
紫は驚きと共に喜びを感じた。陽菜の友人がこの神社を訪れてくれたことは、彼女にとって大きな意味があった。
「そうだったんですね。陽菜さんのお友達なら、どうぞこちらへ。ゆっくりお話を聞かせてください。」
女性を本殿へ案内しながら、紫は心の中で陽菜に感謝の気持ちを伝えた。陽菜の友人が訪れてくれたことが、彼女にとっての大切なつながりを感じさせたのだ。
本殿でお祈りを捧げた後、二人は境内の休憩所でお茶を飲みながら話を始めた。女性の名前は高橋 直子と言い、陽菜とは幼い頃からの友人だったという。
「陽菜とは本当に特別な友人でした。彼女はいつも強くて優しくて、誰に対しても親切でした。」
直子の言葉に、紫は深く頷いた。陽菜の姿が目に浮かぶようだった。
「陽菜さんから教わったことは、今も私の中に生き続けています。彼女がこの神社を守り続けたおかげで、私はこの場所で巫女としての役目を果たすことができています。」
直子は紫の言葉に微笑み、続けて言った。
「陽菜はあなたのことを本当に大切に思っていました。彼女はいつもあなたのことを誇りに思っていたのです。あなたが霧咲神社を守り続けていることを、陽菜も天国で喜んでいると思います。」
紫はその言葉に感謝の気持ちを抱きながら、心の中で陽菜に語りかけた。
「陽菜さん、私はあなたが残してくれたこの神社を、これからも大切に守り続けます。あなたの思いを受け継いで、ここに訪れる人々の心を癒す場所にしていきます。」
その日以来、直子は時折神社を訪れては、紫と共に陽菜の思い出を語り合うようになった。直子との交流は、紫にとって陽菜とのつながりを感じさせる大切な時間となった。
霧咲神社は、紫と美咲、そして直子と共に、新たな時代を迎えようとしていた。先代の巫女である陽菜の教えと信念が、紫の心に深く根付いていた。そして、その思いを受け継いで、紫はこれからも霧咲神社を守り続けるだろう。
陽菜が遺した言葉と行動が、紫にとっての道しるべであり続ける。たった一人でも、その思いを胸に、紫は一人一人の参拝客を大切に迎え入れ、神社を人々の心の拠り所として守り続ける決意を新たにした。
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