第三章 「回顧(退職)」 第一話
二〇二十一年六月六日、日曜日。午後五時過ぎ。
寄り道なのか、通り過ぎたのか。そっぽを向いた気まぐれな雨雲は渋谷にはいない。片手に傘を持った人々が、狭い歩道を溢れんばかりに行き来して、阿弥陀籤の線先を辿るように、更に細い脇道へと消えていく。
開演まで一時間を切って、大型イベントホール「リンクス渋谷」の会場内、エントランス、そして車寄せ付近に群衆が集まっている。
「雨、止んで良かったですね。」
K'sプロテクション警護課きっての武闘派。
身長一九六センチの松永時男は、元総合格闘家で趣味は日焼けサロン。焼けた肌が存在を際立たせ、周囲を威嚇する「陽の警護」に相応しい警護員だ。かなり実力がある選手だったそうだが、ある大会の決勝トーナメント一回戦でロシア人のスター選手に歯が立たずにKO負け。己の限界を知り、知人の伝で K'sに入社。無論、怪力だが短気で一度頭に血が上ると冷静さを失う。若さでは計っていけない危険性を秘めている。愛称はガチムチ。警護員コードはGだ。
「今日は飾りだけで終わりそうですね。」
民間警護員の存在意義は何も対象者を危険から護るだけではない。時には対象者のステータスを周囲に示すための用心棒として警護することもある。総理大臣ばりに、権力を明示するために六名の警護員を雇う有名企業の社長だっている。
「それも仕事だ。この混雑ぶり、ここだけでも千人近くはいる。油断するな。」
「ミミガーッス。」
メインエントランス付近でガチムチと警護対象者の到着を待つ。
(こちらS 用賀IC通過 M15)
(こちらB ミミガー)
Sの社用携帯から到着まで約十五分の連絡が入る。
「G,最終チェックだ。油断するな、感度を上げろ。」
例え飾りの警護だろうと緊張は増す。久しぶりに尊敬するSと同じ現場で警護できるのだ。自然と気持ちは高揚し言葉に力が入る。
会場とその周辺の警戒をガチムチに委ね、地下一、二階にある駐車場の様子を見に行く。地下駐車場の利用者はエレベーターか階段を使って一階の会場へ上がり、警備員の手荷物検査を受けて会場入りする。検査体制に漏れがないか、階段に不審者、不審物が潜んでないかを注視する。
地下二階へ降りると馴染みの顔を出くわす。
モデルの横濱ライカだ。
インドと日本のハーフで、魔法使いのように尖った鼻と、クレオパトラを彷彿とさせる切れ長の二重が特徴の人気モデル。身長は一七五センチで、何かの美容液のCMに出演している。以前からストーカー被害に悩み、警護の依頼を受けたことが度々あった。今日は一部でモデルとして、二部ではトークショーのゲストとして参加する予定だ。
「あら、ボディーガードさん。お久しぶりね。」
「ご無沙汰しております、ライカさん。」
「今日はマシュ―のボディーガード?」
「ええ、会場の警備も弊社で行っています。」
「総力戦ね。私もマシューの無事を願ってマシュー!」
ボディーラインが容易に分かるタイトなミニスカートから褐色の太ももを露わにするライカは不気味な高笑いをして、黒人の用心棒とエレベーターに乗り込んでいった。
総力戦。その通りだ。会場内外の雑踏警備に限らず、地下駐車場の誘導、手荷物検査も K'sプロテクションで請け負っている。各所に信頼する同僚がいて、無線チャネルを変えれば各警備隊の現況が確認できる。
異常はない。誘導警備の責任者に挨拶し、エントランスでガチムチと合流する。
「オールクリフ」
互いに異常がないことを報告しあい、イーグルの到着を待つだけとなる。
雨は降っていない。薄黒い雲に若干の夕陽が差し込み、幻想的な色を放っている。束の間の景色を楽しみながら、無駄話が始まる。
「先輩、ランウェイって歩いたことあります?」
「ある訳ないだろ。サブウェイも食べたことないのに。」
「全く面白くないですよ。」
大規模でなくても約三千人の観客が集まり、約三十名のモデルが五十メートル前後ある特設ランウェイを歩く。
目立ちたがり屋の警護対象者は自ら一押しの洋服を着てオオトリで歩くのだが、サングラスをかけさせてSとガチムチを引き連れてランウェイを歩くと言い張る。余程に警備員と手荷物検査を信用していないらしい。
「まあ、これも人生経験だな。」
「だからお飾りは嫌なんですよ。」
「でもお前、お洒落しているじゃないか。」
ガチムチはグレーのスーツ下に鮮やかなピンク色のシャツを着ている。
「だってユーチューブとかネット記事とか、部屋したらTVに映るかも。」
ランウェイを歩けず僻むことはないが、緩むのはベルトだけにしておけと注意する。
来る。これまでの経験値、そして肌時計でイーグルが近付くのが分かる。
(MM)
(こちらB ミミガー オールクリフ)
(こちらS ミミガー)
つま先を槌で叩かれたような刺激がアドレナリンとなって、一気に体内を上昇する。強大な正義感が不安に覆い被さり、不要な瞬きを滅する。他人に命を賭ける時間が目前に迫る。(イーグルは命を懸けて護る)と一種の自己暗示をかけて覚悟を決める。
公道を走る新幹線のような白いリムジンの頭が出現すると、群衆は鉄の塊を見ただけで、怒号のような歓声があがる。。
ガチムチが太い右手を挙げてドライバーへ停車位置を指示。徐行するリムジンは窮屈そうにロータリーを右回りし、レッドカーペットの前に停車する。
携帯とカメラのフラッシュが瞬いて、白と黒の交互世界が幕開けする。そして静かに助手席から降りたSが威厳たる表情で周囲を警戒し、イーグルが乗る後部座席のドアノブに手をかける。車輛前方をG,後方を自分が担当し、三人で三六〇度の交互世界を警戒する。
「キャアアア嗚呼!」
抵抗せずに激しい鼓膜の振動を受け入れて、主役の登場に全集中する。
先週まで金色だった髪色が黒に変わり、キラキラが埋め込まれたワインレッドのスーツを着る。今日もスターのオーラが全開だ。
彼は両手で手を振った後、右手にテニスラケットを持ったいつものポーズをして、
「スマーシュ!」の大号令が渋谷に響き渡った。
警護対象者、笹垣マシュー健二朗、満二十七歳。身長一八三センチ、AB型。持病のない健康体だが毒舌。
「この腐り切った世の中を僕のキラキラオーラで切り裂いてやる。そして子猫ちゃん達と一緒に桃源郷を作る。」
「資産や年齢関係なく、夢の妨げになる奴はスマッシュする。僕の成功が、燻る日本の教科書になる。」
確か雑誌の記事でそんなことを述べていた。
常に炎上有名人の上位に名を連ね、信者以外の多くの国民から相応の罵声と誹謗中傷を浴びている。純潔な日本人だが、ちゃっかりとミドルネームを拵えて、信者からは(マシュー様)(えんじ色の王様)と仰れている。
生まれたての小鹿のような円らな瞳に細長い手足、全身に日焼けシールドを張ったような白い肌。強気な発言とは逆で、か弱さを醸すビジュアルが母性本能を刺激して、老若問わず女性人気が高い。
元新宿のホストで某SNSフォロワーは約五〇〇万人。その日の気分によるが、髪色、ジャケット、イヤリングなどのアイテムには必ずイメージカラーのワインレッドが入っている。
日本を代表する化粧品ブランド「SASAGAKI」を経営する笹垣みのりを母に持ち、父は幼少時に別の女優と電撃再婚した大御所俳優の武田万太郎。
表向きには「母の力を借りずに夢を実現し続けるカリスマ実業家」。大きな資本が母から息子の会社へ流れているとの噂があるが、五年前に「S―Mash」という会社を立ち上げて、美容品の開発・販売、自らデザインしたファッションアイテムの販売を精力的に行っている。
今日は「Mathews Beauty Show(MBS)」と題した二部構成のイベントが開催される。一部は新作の洋服を披露するファッションショー。二部は新作の化粧品発表とゲストを交えたトークショーが予定されている。
「妃さんたち、御機嫌よう!」
サービス精神旺盛な目立ちたがり。マシューは一画のファンの元へ向かうと、握手に応じる。先方左をG,右を自分、そして後方全体をSが警戒する。
人を相手に申し訳ないが、こういった状況で警護員は壮絶な「もぐら叩き」を開始する。直近の人間から安全かどうかを瞬時に判断して、「不審者・襲撃者」から除外していく。手紙や生花の小束が「愛している」の言葉に乗って飛んでくるが、危険が無ければ放っておく。鍛錬を重ねた眼球を動かし、その人間の表情や手の動きを確認する。プロの警護員として本領を発揮すべきワンシーンだ。
もし対象者に銃口を向ける者がいたらどうする?答えは簡単だ。民間の警護員は銃を持っていない。それまでの警備に落ち度があったと瞬時に覚悟して、己の体をイーグルの壁にするしか術はない。
(ケイプ)Sの無線で握手対応を静止し会場入りする。場内でも大きな声援を受けるが、それ以上のファンサービスには応えずに会場奥にある控室へ直進する。
祝花の花畑に囲まれて、黒いソファーに身を委ねたマシューは長い脚を組んだ。
「アチャパー♪ジメジメした渋谷でこれだけの熱気。どこまで続くのさ?僕の人気は。僕のサクセスストーリーは!でもさ、求められるだけのライフって、疲れちゃうよねー。」
いつもの独り言が始まる。反応しなくていい警護員は楽だが、マネージャーは大変だ。常に顔色を伺って、抑揚のついた相槌だけはしないと機嫌を損ねてしまう。
マシューは太客だ。イベントがあるごとに我が社にに警備と警護を依頼し、多額の警備料金を支払って売り上げに貢献してくれている。
「ねえ、そう言えばニッシー。今日は堂ちゃん来てないの?」
「ええ。堂はどうしても外せない現場に出ていまして。」
「何それ。僕のイベントに来ないなんて。社長に言い付けるよ。」
「すみません。次は可能な限り調整するようにします。」
「新商品のこと、すぐ伝えておいてよ。彼女はうちの美容品の愛用者らしいから。効くわよー。堂ちゃん、だいぶ歳を重ねているから。」
高姐が聞いたら、茹蛸になって怒りを押し殺すのだろうと想像しながらガチムチと控室前に立哨する。
「あのハイテンション。まさかリスクの常習犯じゃないっすよね。まるで毒舌オトコオンナですよ。」
「私語は慎め。会社にとっては大事なクライアントだ。」
憧れの西岡先輩は同行警護員としてイーグルの話し相手も熟す。警護活動を円滑に進めるため、近すぎず、遠すぎず、抜群の距離を保ってイーグルと信頼関係を築く。警護員側の主張を受け入れてもらうためでもあるが、相手を知ることでイーグルの精神と生活を護ることに繋がる。
因みにマシューは密室が嫌いだから控室の扉は閉じないし、エレベーターには乗らず、エスカレーターがなければ階段移動する。冷えたものが嫌うため、冷たい飲み物の差し入れは受取らない。些細なことかもしれないが、その人にとって大事なことを知っておくことで、その人にとってのその日が安らぐものになる。
民間警護界のパイオニアで、警護二課の課長。頼れる兄貴として誰からも慕われ「章兄」と呼ばれている。警護員コードはS。自分を弟のように可愛がり、愛ある厳しい指導をしてくれる。独り立ちして暫く経つが、少しでも成長を示したい。隙のない警護をして役に立ちたい。数日前からそのことばかりを考えていた。
※
午後六時から始まる第一部のファンションショー。
約五十メートルの花道によって左右に分けられた観衆が、王子の手掛けた洋服を着るモデルの登場を待っている。煌びやかな衣装を着た女性タレントの前説が始まり、マシューと親交のある歌手が歌を披露する。
「こんな暗闇でどう護れって言うのですかね。」
ガチムチはそう言いがら、舞台裏で待機するモデル達をガン見する。
気持ちは分かる。高性能の暗視スコープがあれば話は変わるが、周囲を見渡すことが出来ない暗闇で生身の人間が出来ることは限られる。
気休め程度ではあるが、この様な状況ではLEDスティックライトが役立つ。暗がりを照らすことが出来るし、イーグルの行先を示す誘導灯としても活躍する。強光を近くで浴びせれば、相手の眩暈や吐き気を誘発するこだって出来る。
「今日はベリベリサンキューね。いつも通りにエレガンツにお願いね。」
各モデルの元へ向かい、挨拶とハグを交わすマシュー。目玉モデルである横濱ライカも笑顔で抱擁する。章兄は少し離れた位置で周囲を警戒している。
韓流ブームの時、羽田空港に姿を現したスターの傍にはいつも章兄がいて、朝の情報番組に度々映り込んでいた。 K'sプロテクションの代表を務める真鍋社長は配給会社や広告代理店と繋がりがあるため、海外から来日する者を含め、著名人の警護を請け負うことが多い警備会社だ。
(こちらB ゴーヤ)
舞台裏を離れ、会場内へ移動する。三千人余りの携帯画面と、数多のペンライトが低い星空を形成している。観覧無料のイルミネーションに囲まれた導線を進み、会場内を警備する同僚と会釈を交わす。
ランウェイは一メートル以上の高さがあるが、完璧な防波堤など存在しない。
それに沿うように、等間隔に並ぶポールパーテーションと黄色い蛍光色の分断テープ。誰一人も侵入させまいと、濃紺の制服を着た二号警備の同僚が何十人も立哨している。彼等も別の周波数に合わせて無線交信を行っている。
―Ladies & My Princesses.
It's the beginning of the smashing world.
The name of that world is MBS ! MBS !MBS !―
会場内の至る処からスモークが噴き出し、定時を五分遅れてショーが始まった。
頭上を歩くモデルは雄大で勇ましく、獲物を狙うかのような鋭い目をする者もいる。女性警護員にスカウトしたくなるが、余りに長細い精鋭に高姐を超えるスペック女性はいない。
一人一人の登場に歓声が沸くが、そこに脅威は存在しない。誰もがモデルの姿に見惚れ、気に入った服があればスマホの購入画面に急ぐ。投げ込まれる物はなく、ステージ上への侵入を防ぐことに全セキュリティースタッフが集中する。
恐らく会場内のほとんどがマシューのファン。冷静に考えれば入口で手荷物検査を通過した観衆だけの安全地帯で、万が一が起こる可能性は極めて低い。
そして順調にショーは進み、あとはマシューの登場を残すだけとなった。
(こちらS MM B集中しろ 空気が変わる)
(こちらB ミミガー)
一定だったBGMが止み、昨年スマッシュヒットを記録したマシューの代表曲「mash the cruel world」が会場内に響く。
登場口に赤と白のスポットライトが降り注ぎ、主役と二人の用心棒が登場。
会場内に赤いサイネリウムが咲き乱れ、長方形の花弁が揺れに揺れる。
蛹のような奇形をした臙脂色の洋服を着て、ビックビジョンにマシューの挑戦的な表情が映ると、BGMを覆う大歓声が上がり、反響した地面が震える。
露出したマシューの白い肌がライトによって発光し、殻から脱皮した成虫のようにステージ上を自由奔放に歩き出す。
新生、笹垣マシュー建二朗が誕生した。
どんな人間であろうと、多勢を魅了する者は特別な何かを持っていて、己の見せ方を熟知している。章兄の言う通り、たった一人の存在が会場を一変した。
マシューがデザインしたサングラスをかけた用心棒が堂々と後を歩く。サングラスのフレームは個性的な形状をしているが、そんなことはどうでもいい。章兄が了承したのだから、眩しいライトを遮断する優れ物であるはずだ。
「マシュー愛してるう」「こっち見て、王子様」「もう死んでもいい!」
目の色を変えた一部のファンがパーテーションを超えようとする。束になった渇愛の重圧に耐えきれず、後ずさりする警備員。包囲網を掻い潜った者の手がステージ上に伸びる。
「ここは立ち入り禁止エリアです!危険ですから元の位置に戻って下さい!」
静止を試みるが声が届かない。人数が多過ぎて抑えられない。
これではマシューの警護どころか、人流雪崩が起きてしまう。他の警備員と共にその場に精一杯になる。
そんな惨状の最中、マシューと目が合ったように感じた。
―君、そんなところで何をしているの?-
下界を見下ろした嫌らしい笑顔を見せ、興奮のボルテージを上げて歩が勢いづく。
誰かのファンデーションや口紅がネクタイとスーツに付着するが、手を広げて全力で「執拗な愛」と対峙する。その愛に応えるため、ステージの先端に辿り着いたマシューは渾身の決め顔を振り撒いた。
しかし、そう長くは続かない。
毅然と振り返ろうとしたマシューは何かを見て凍り付き、突然呼吸不全に陥ったかのように、その場にフリーズしたのだ。
―何を見た?―
視線の先を追うが、暗がりと雑踏で何も見えない。
「妬み、嫉妬は尊敬、人気の裏返しじゃない。ウェルカム、ウェルダンよ!」
マシューはこれまでに何度も脅迫や殺人予告を受けているが、相手にする素振りを見せずに活動を続けてきた。不特定多数の見えない敵にびくともしなかった彼が、特定の何に怯えたのか?
背後から異変を察した章兄が背中を支えてステージを折り返すが、マシューは手を振り払って歩くスピードを速めた。躍動を失った手足が綺麗に収まり、敗戦帰りの兵士のような後姿。
モデル達がステージ上に勢ぞろいし、中央で手を振るマシュー。
たった数分で、玉手箱を開けた後のように老けた表情は、この場から早く逃げ出したい。自分にはそんな表情に見えた。
控室に戻ったマシューは動揺を隠蔽し、偽りの平然を強行する。第二部の開演まで約三十分。スタイリストのメイク直しを受けながら、体を冷やさまないと常飲するルイボスティーを無視して、キンキンに冷えたスプライトを口にする。
「見たくないものを見た。明らかにイーグルの様子がおかしい。」
「一方的に振ってエリコで腹を刺されたジョリーがいたとか、ホスト時代に揉めて大嫌いなダニーがいたとか、実は昔虐められていて、その虐めっ子がチカコを構えていたとか…」
「お前はいつもエリコとチカコが好きだな。」
後方でランウェイを歩いた二人はあのマシューの表情を見ていない。
社会的強者の彼が瞬間冷凍され、更なる強者に怯えた顔を。
室内にいた章兄がやってくる。
苦みを含むが章兄の笑顔が現場の空気を軽く、明るくしてくれる。「威厳」と「ユートピア」が同居する人柄に、誰もが救われる。
「Gは待機。ゴーヤまで施設内の巡回を頼む。イーグルの異変については本人に上手く聞いてみる。」
施設内を見周る。二部の参加者は1000人限定。一部の3000人に比べると、会場内のリスクマネジメントはしやすくなる。当選倍率は知らないが、一部の参加費用が5五千円、二部が一万円と考えると、二部の参加者はマシューが好きで堪らないファンのはずだ。
メインエントランス近くに設置された物販コーナーは異様な盛り上がりを見せている。プロマイド写真にフォトブック、既に販売されている美容品が飛ぶように売れ、まだ正式に発表されていない新作の先行販売には大蛇のような長い列ができ、警備員が人流整理に奔走している。商品説明のポップをろくに見ず、その多くが興奮気味に新商品を購入していく。
(こちら警護課の澤です。皆さんお疲れ様です。実は警護対象者が危機を感じる人物が来場している可能性があります。単独でなく複数いるかもしれません。些細な事象でも構いません。不審があればチャネル3の警護課へ報告お願い致します。)
各警備隊へ協力を仰ぎ、施設の外周、建物内外の死角、トイレ等も見回る。
(こちらS あんたはもう来なくていいと怒られたが、ホスト時代に妬まれた大嫌いだった元同僚ホストに似たダニーを見たそうだ。殺して欲しいと言われたが丁重に断ったよ。B安心しろ。今日は会社全体で警備にあたっている。大丈夫だ。)
(こちらB ミミガー 現状オールクリフ)
章兄の言う通りなのかもしれないが、それでもあのマシューの表情が脳裏を離れない。冷静さを取り戻したい。夜風にあたりたいと関係者専用の喫煙所へ向かった。
― 第三章 「回顧(退職)」 第一話 完 ―
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