第6話

 そのまま少し歩けば、変わらずレストランの前で待つライアのもとに辿り着いた。ニナは知らない大人に警戒心を露わにしているようだった。


「お待たせ。この子はニナというのだけど、世話を頼めるか? 女性同士の方が何かといいだろう」


「構わないけれど……、連れて行くの? レナード君がいい顔しないと思うわ」


「少し聞きたい話があるんだ」


「そう、私はライアよ。よろしくね、ニナちゃん」


 装束の裾が地面につくのも気にせずしゃがみニナの目線に合わせると、ニナも緊張した様子で小さくお辞儀を返した。ライアが微笑めば、ニナも少し表情を緩ませた。


「さあ、お腹は空いている?」


 丁度ここで食事をしようと思っていたところだと、ニナに問えば小さく頷いた。町は騒ぎなど何も無かったかのように、忙しなくも穏やかな時間が流れている。


 客寄せの男は相変わらず店の前に立ち、通りかかる商人や住人に笑顔で声をかけているが、一行からは興味を失ったかのように見向きもしていない。二人をその場に残し、シャーラは男に食事は出来るか声をかけるも、男は苦笑いして目を逸らす。


「お食事ねえ……。貴方が連れてらっしゃったの、スラムの餓鬼でしょう」


 スラムの餓鬼、誰も、ニナ本人でさえ貧民街から来たとは言っていないものの、先程の店の店主も目の前の男も彼女が貧民街の住人であると確信しているような話しぶりだった。


 シャーラとて世間知らずではない。彼らの言い分が間違っていないことは分かっていた。ニナの身なりを見れば火を見るよりも明らかで、ここまで町を歩いただけでも平民が裕福な生活をしていることは疑いようがなく、その中で不器用に継接ぎされた跡の汚れた襤褸のような服を身に纏った彼女は間違いなく貧民街から来たのだろう。


「あの子の分まで金ならあるが」


「あんな身なりだと店の品格に関わるのでちょっと……」


 男はそう言って貧民街の住人をまるで人間とも思っていないような、軽蔑するような視線をニナに向けた。シャーラはその視線を遮るように、貼り付けた笑顔で一歩右に動く。


 大きな都市には大抵貧富の格差が生まれる。その結果町の端に出来上がるのが貧民街、スラムだが、その扱いは為政者によって大きく異なっている。王都では王族が主導して炊き出しを始めとする慈善活動が積極的に行われている。しかし、このアドラムという輝く町における貧民街の存在は恥ずべきもの、差別の対象となっているようだった。


「では他を探そう」


 踵を返しながらそう告げると、男は笑顔で小さく会釈した。厄介な客が立ち去ることに安堵しているような様子だった。

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