第2話
寒い。
うずくまっても逃れられない寒さ。
膝を抱えてじっと耐え忍ぶ。
砂漠の夜は冷えるといえど、この地域は路上で生物が凍死するほどの寒さにはならない。家の中で布に包まれば何ら問題ない程度の気候である。しかし、まともな食事にありつけず体温を保てない幼子にとっては生死に関わる極寒となる。
普段であれば手伝いの報酬としてパンの一切れなり穀物の一掬いなりくれるものだが、今日は婦人の虫の居所が悪かったようだ。些細なことで怒鳴られ手を上げた。体は凍えるように寒いのに、張られた右頬だけが熱を持っている。
近所の人間たちが口々に配給が減ったと言っていた。ここらに住んでいる者たちは仕事にありつけず、配給に頼るしか生きる術がない者たちだが、その配給すら減らされてしまえば生きていけないと。
少女には実感がなかった。
少女には親がいない。少女の保護者を自称する女が代理として配給を受けている。食料が分け与えられるかは全てその女の気分次第だった。見殺しにするつもりはないのか、数日食事ができないことはあっても、倒れそうになる頃には決まってわずかな食料が与えられていた。
「……さむい」
そう呟いて身動ぎすれば白い息の代わりに砂が舞った。手を擦ればわずかに熱を発するが、すぐに指先から冷えていく。
早く夜が終わればいいのに。少女は毎晩考える。薄い襤褸で体を覆いなおし、眠ってしまえと目を閉じても睡魔は来ない。
暗闇の中、部屋の隅から聞こえたかすかな物音は簡素なベッドに横たわる女が寝返りをうった音だ。配給の内容に腹を立てていたが、少女を怒鳴りつけて殴り、その分のパンを食べたことで多少満足したのか、気持ちよさそうな寝息を立てている。
当然少女に寝床は用意されていないので、物音を立てて女の機嫌を損ねないようじっと夜を越すだけだった。眠ってしまえばよいが、飢えた夜は眠ることすら難しい。
部屋の角に背を預け、窓枠すらはまっていない、もはや窓とすら呼べないような壁の穴を見上げれば丸い月と輝く星々が少女を見つめていた。
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