第4話


「もぐもぐ……」


 ここは学園『ホライズン』の一階にある食堂だ。全メニューが100円というリーズナブルな価格が設定されている。ご飯のおかわりも無料だ。


 僕は夕食のカレーを食べる間、自然と笑みが零れてきた。旨いし安いし、何よりガチャができるしで。


 ん、周りからヒソヒソと声が聞こえてくる。


「なんか変なのがいるな」


「あいつ、たまたま助かったからって調子に乗りすぎだろ」


「ただのだな」


「ほんとほんと」


「……」


 ほかにも、いじめられすぎて頭がおかしくなったとか、モンスター退治に失敗したくせにとか、色々と心無い声が聞こえてくるが気にしない。どうやら、僕がモンスターに逃げられたと思われているようだ。まあそれでもいいや。


 メタリックスライムを倒してポイントを大量に獲得したなんて言っても、端末の情報を見せない限り誰も信じないだろうしね。それが判明したところで、不良たちは僕に復讐されると思って、今のうちにこぞって僕を害しようとするかもしれない。


 出る杭は必ず打たれる。今すぐにでも情報を先生に提示すれば昇格できるけど、目立つ生徒を害しようとするのは上級クラスへ行っても同じことのはず。


 だったら、しばらくは階級が底辺のまま力をつけるというのもありかもしれない。その上で実力を隠し、偶然上手くいってると見せかけて油断させ、一気に捲るんだ。


 というかそれよりも、今はガチャをするタイミングのほうが大事だ。いつにしよう? あと、場所も大事だ。大部屋は目立つからね。覗き見されるかもしれないし。


「よう!」


「はっ……⁉」


 大量のポイントを見ながら思考していると、いきなり声をかけられて咄嗟に端末を隠した。誰かと思ったらだった。


「あ、青野さん……」


「白石のあんちゃん、そんなに慌てて端末を隠して、どうしたんだ?」


「あ、いや、ちょっとスケベなゲームしてて……」


「ワハハッ、そうだったか。そりゃすまんかった。やっぱり白石のあんちゃんはまだまだ若いのう」


「は、はい。ストレスを発散したくて……」


「うんうん。いじめられとる上に、モンスターにまで逃げられたとあっては仕方あるまいて。というかだ。わしもだな、そんなにエッチなもんじゃないが、ゲームはやっとるぞ! 競輪娘をな!」


「あー、あの太ももが魅力的な競輪娘……」


「そうそう! さすがスケベなあんちゃんだ! 見ているところが違う!」


「……」


 ちょっと不服だけど、ごまかすためだから我慢だ。そうか、青野さんは競輪娘にはまってるんだな。そういや競輪が趣味だって以前言ってたからね。


「それにしても、何事もなかったようでよかった。もし白石のあんちゃんに何かあったら、わしは罪悪感で一晩眠れなかっただろう……」


「一晩眠れないだけですか……」


「あ、いや、そういうつもりはなくてなっ」


 とりあえず、なんにもバレてないみたいでよかった。そのあと適当に話をしつつ、僕たちは部屋に戻った。


 ガチャをするタイミングはどうしようか。そうだな……もしかしたら、僕がずっと起きて端末を弄っていたら、何かあったんじゃないかって僕の情報を探ろうとしてくる恐れもある。だから、大部屋でガチャをするのは危険すぎるように思うんだ。


 よし、こうなったら学園内をウロウロしながらガチャをすることにしよう。そうすれば運動にもなるし、行方もわからないので不良たちに絡まれにくい。思えば、タクヤとマサルに絡まれていたときは、夜に悪戯されるのが嫌で、ウロウロしてたんだった。


 あいつら、僕がやり返したのを根に持ってるらしくて、優也ちゃんが死ななくてよかった、生きてたから泣いて喜んだ、お前をいじめられなくなったら詰むってはしゃいでたからな。かなり気持ち悪いけど、ある意味僕のファンらしい。


「……」


 そろそろかな。僕は普通に寝たように見せかけて、深夜に大部屋を出る。


 今日は色々あって凄く疲れてるはずなのに、ガチャをいっぱいできるもんだから、ドキドキして寝られなかった。


 なんせ、ただのガチャじゃないしね。自分の今後を決める、運命を左右する人生ガチャといっても過言ではない。


 夜は学園外へ出ることはできないが、学園内だと普通に出歩くことができる。ただ、すべての場所を自由に出入りできるわけじゃない。


 基本的に一階だけだ。テレポートルームから各階層へ一瞬で行けるが、僕たちは使うことができない。二階以降はさらに設備が整ったトレーニング施設、ビュッフェや夜店、プールや温泉、レジャー施設なんかもあるそうだ。上の階層へ行けば行くほど豪華になるんだそう。


 だから、上級の階にはまだいけないわけだけど、そこの人たちが一階に降りてくるときもあって、従魔を連れて歩いてるところなんかを見たことは何度かある。


 大きなオオカミや、鎧を着たリザードマンらしきトカゲ人間、兜が立派なオーク子もいたっけな。


 従魔を連れている時点で、僕ら最下級の探索者からしてみたら憧れの存在なんだ。ま、僕にとっては神山さん以外にいないんだけどね。


 あの人の熱いハートには本当に痺れる。不良が彼に絡んでいったと思ったときには、もう顔面に拳がめり込んでたからね。躊躇も手加減もまるでないっていうか。


 いじめられっ子の僕が不良たちに反撃できたのも、あの人の影響があったからだ。その上、モンスター退治に立候補をする勇気まで持てたんだから感謝しかない。あの人の前でそんなこと言ったら、お礼なんか言うな、気持ち悪いんだよって小突かれそうだけど。


 とにかく、今の僕には大量のMPモンスターポイントDPダンジョンポイントがあるわけで、従魔を獲得できるチャンスは大いにある。そう思うと心臓が口から飛び出すくらいワクワクすることだった。どうせなら可愛い猫娘とか出現してくれないかな? それはさすがに無理か……。


 さて、そこら辺をブラブラと散策しつつ、ガチャをやるとしようか。それも夢の1000連ガチャだ。


『白石優也様、1000連ガチャを開始します。現在のMP:1000』


 番  結果


 1. スカ

 2. スカ

 3. スカ

 4. スカ

 5. スカ

 6. スカ

 7. スカ

 8. スカ

 9. スカ

 10.スカ


「……」


 まだまだ、始まったばかりだ。こんなもんじゃない。


 61.スカ

 62.スカ

 63.スカ

 64.スカ

 65.スカ

 66.スカ

 67.スカ

 68.スカ

 69.スカ

 70.スカ


「……」


 いやいや、まだまだポイントは大量にあるし!


 251.スカ

 252.スカ

 253.スカ

 254.スカ

 255.スカ

 256.スカ

 257.スカ

 258.スカ

 259.スカ

 260.スカ


「う……」


 とうとう、260ポイントも消費してしまった。ここまで何も出ないものなのか。それとも僕の運が異常にないだけなのか。確かに『1』だけどさあ。


 いずれにしても、少し焦ってきたことは事実だった。というか、ここに来て眠気が凄い。防衛反応なのか、とても辛いと眠くなるんだな……。


321.スカ

322.スカ

323.スカ

324.スカ

325.スカ

326.スカ

327.スカ

328.スカ

329.大当たり!(『不気味なゼリー』を獲得!)

330.スカ


「おおおおおおっ!」


 僕はその場で大声を出して飛び上がってしまった。周りにいる人に眉をひそめられたけど、まったく気にならないくらい最高の気分だ。


 名称:『不気味なゼリー』

 種別:『素材』

 レア度:『C 』

 効果:『暗色のゼリー。時々うごめいているような気がする。合成の素材に使える。食べるとほんのりとした甘みと苦みがある』


 端末で調べるとこんな情報だった。食べる選択肢はさすがにない。素材は一つだけだと合成ができないから、この調子であと770回ガチャをやれば、最低でももう一個は出るはず。


 551.スカ

 552.スカ

 553.スカ

 554.スカ

 555.スカ

 556.スカ

 557.スカ

 558.スカ

 559.スカ

 560.スカ


「……」


 ぐぬぬ……。


 771.スカ

 772.スカ

 773.スカ

 774.大当たり!(『謎の目玉』を獲得!)

 775.スカ

 776.スカ

 777.スカ

 778.スカ

 779.スカ

 780.スカ


 おおおお、ついにやった!


 これで素材が二つ揃ったので、念願の素材合成ができる。その前にどんなものなのか調べてみるか。


 名称:『謎の目玉』

 種別:『素材』

 レア度:『C』

 効果:『ぎょろっとした目玉。合成の素材に使える。魚介系の匂いがする』


 それにしても、ここまで苦労するなんて夢にも思わなかった。スキル持ちが最下級クラスにはほぼいないって言われてるのもわかる。素材ですらここまで出ないんだからね。


 さあ、これから合成っていきたいところだけど、MPはあと220回しか残ってないし、ここで終わらずに全部やっておこうかな。素材は既に二つ取っているだけに、気持ち的にも余裕がある。


 811.スカ

 812.スカ

 813.スカ

 814.スカ

 815.スカ

 816.スカ

 817.スカ

 818.スカ

 819.スカ

 820,大当たり!(『開かない箱』を獲得!)


「よっしゃー!」


 今度はすぐに出た! 確率は収束するとはこのことだね。


 名称:『開かない箱』

 種別:『素材』

 レア度:『A』

 効果:『どうしても開かない箱。合成に使える。呪文のような文字が隙間なく刻まれている』


 レアリティがA! 凄い素材が来た。この調子でもう一個頼む頼む頼む!


 951.スカ

 952.スカ

 953.スカ

 954.スカ

 955.スカ

 956.スカ

 957.スカ

 958.スカ

 959.スカ

 960.スカ


「……」


 ま、そう甘くないか。


 991.スカ

 992.スカ

 993.エラー発生!

 994.スカ

 995.スカ

 996.スカ

 997.スカ

 998.スカ

 999.スカ

 1000.スカ


 ん? エラー発生?


『白石優也様、申し訳ありません。993回目のガチャの際、二つの素材が同時に出現したため、自動的に合成されてエラーが発生してしまいました』


 ガチャ用の生成AIが謝ってる。二つの素材が合成された? どゆこと?


『その結果、あなたは【合成マスター】というスキルを獲得しました!』


「え……えええええぇえぇえええっ⁉」


 眠気が一気に吹き飛んでしまった。素材ガチャでスキルを獲得するとか、そんなのありえるのか。確かにエラーといえるような現象だし、説明を聞くと納得だ。確率は超低そうだけど……。

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