第10話 大ハーンの顕現

今、あの餓鬼は引けと言ったか?


董卓はその甘い言葉を聞き、逃げる事を決意する、生きてさえいれば何度でも悪徳に興じる事が出来るのだ、なんならこの餓鬼をチンギスにぶつけても良い。頭の中ですぐに方針を決め、口を開く


「分かった!もう二度と非道はやらん!兵も全て引く!これで終わーー」


許 さ ぬ


空から地鳴りのような声が響く。

顔面蒼白の董卓はブルブルと震えている


声の主は 続ける


大 ハ ー ン に 敗 北 は な い

蒼 狼 た ち よ 喰 え


声を聞いた蒼狼達はアラタに襲いかかると思いきや、 隣の新狼兵に襲いかかる。 その身体はアメーバの様に狼の形を解き兵士を取り込み飲み込もうとしているようだ。

新狼兵士も恐怖に怯えながら必死に振りほどいているが、ぴったりとくっついた軟体生物を、どうする事も出来ず、次々に喰われていった。


董卓にも数匹のアメーバがまとわりつき飲み込み出している。


「やめろ、やめろ!!俺はまだ栄華を極めてない!酒池肉林を味わっておらんのだー!!」


醜い断末魔と共に董卓や兵士を飲み込んだアメーバはそのまま黒い長髪の小さな男へと姿を変える。


同じ容姿が並び立つ異様な光景にアラタは眉をしかめる。


その中の1人が口を開く。


「儂こそが大ハーン、チンギスである。

とは言っても素材が悪すぎて儂の劣化版だがな。蒼狼の目を通して全てを見ておった。

儂は力ある者を好む。

そこの童、お前をハーンとし儂の一族に加えてやろう。」


アラタはため息をつくと答えを返す。


「お主の事は知っとるよ、モンゴル大帝国を築いた偉大なるチンギス・ハーン。」


「おお!話しが早い。ならば平伏せよ!」


嬉しそうなチンギスを一瞥いちべつするとアラタは続ける。


「まあ、最後まで聞きなさい。偉大だったチンギスよ。お主は確かに大帝国を築いた。だが略奪を繰り返し和を説かなかった。お主の大帝国は、お主の死後、長い長い冬の時代を迎えた事もわしは知っておる。

さらにこの世界では、自国の兵士まで飲み込み依代よりしろにするその所業。もはやお主は大ハーンなどでは無く只の魔物じゃ。そんな魔物に下げる頭は持ち合わせておらんよ。」


チンギスは端正な顔を歪ませ狼を思わせる表情を作り激怒する。


「偉大なる大ハーン・このチンギスを魔物だと…? 所詮馬と共に生きぬ民よな。その無礼、死を持って償わさせ、亡骸は狼の餌としてやろうぞ!!!」


言うや否やチンギスは一斉にアラタに飛びかかる。


アラタもそれに呼応し、戦いがはじまる。


「爆ぜよ」


アラタが唱えた魔法で爆発が起こり、チンギス数十体がバラバラになる。


だが、バラバラになった欠片から同じようにチンギスが発生した。



チンギスは醜悪な笑みを浮かべ勝ち誇って口を開く

「無駄よ、全ては儂で儂は全て。何度でも復活し儂は永遠に倒れぬ。」



「それは困ったのう。異世界にもよく居た、一気に全てを倒さねばならんタイプか。わしは広域殲滅魔法こういきせんめつまほうは苦手なんじゃ。使えない訳じゃないが燃費も悪くてのう。この若い身体で耐えられるかどうかも賭けじゃな。そういうのはリーズが得意だったからのう。」


多数のチンギスの攻撃を全て完璧に避けながらアラタは頭を抱えている。


「そうじゃ!!この世界に来た時に何かスキルを貰ったのう。試しに使ってみるか。

なんじゃったか…

そうそう、これじゃ【異界召喚いかいしょうかん】」


アラタがスキルを使うと、目を開けられないほどの光が全てを包みこんだ。

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