02_カスタマイズ

 自分の複製が、性器も露わに裸で横たわっている。


 顔を近づけて、間近で見てみた。眉毛に睫毛まつげ、顔の産毛。どう見ても実物の人間にしか見えない。恐る恐る頬を触ってみる。肌の質感もまるで本物だ。

 

 それにしても、どうなんだ俺の身体は……


 今年で33歳になるのだが、本当にだらしがない。ぽっこりと出た腹に、むくんだ顔。伸びきった髪の毛に、無精髭。最近老けたと薄々感じてはいたが、ここまで酷かったとは……


 小さなため息をつきつつ、このタイミングで取り扱い説明書を探す。だが、説明書のようなものは無く、代わりにQRコード付きのカードが入っていた。スマホでQRコードを読み込むと、アプリのインストールを促された。きっと、説明書もここに入っているのだろう。言語から日本語を選び、無駄に長い『同意書』にOKすると、インストールが開始された。


 インストール完了後、アプリを立ち上げて表示されたのはデカデカと記載された

警告文だった。


『RC-AVATARに関するSNS等での投稿(動画・静止画・音声)は一切禁止いたします。発見次第、RC-AVATARを即時停止、及び損害賠償請求を行います』


 な、なんだこれ……購入する時にこんな注意書きあったか……?


 そんなモヤモヤした気持ちのまま『了承』を押すと、取り扱い説明書が表示された。メニューは大きく三つあるようだ。


【1】RC-AVATAR起動方法

【2】ゴーグル使用方法

【3】アバターのカスタマイズ


 ああ……『【1】RC-AVATAR起動方法』は既に終わらせてしまったようだ。じっくり読むのは次の機会にしよう。


 【2】は付属されているゴーグルの説明だった。これを使えば、このアバターを操作できるそうだ。


 …………!!


 そっ、操作!?


 ……って事は、コイツ動くのか!?


 慌ててそのゴーグルを箱から取り出しす。デカイ。かなりのサイズだ。ゴーグルというより宇宙飛行士などが被るヘルメットの形状に近い。早速、ゴーグルを被って電源を付けてみる。『キューン』という小さな音を立てて起動を始めた。

 

「おおおお!!」


 思わず大声が出た。


 目の前に広がる景色が、横に寝ているアバターの視界だったからだ。正面には天井、隣にはあぐらを掻いてゴーグルを装着している俺が見える。とりあえず、その場でアバターを立ち上がらせてみた。何の違和感も無く、アバターのみが立ち上がる。ゴーグルを装着した俺は、隣であぐらを掻いたままだ。


 じゃあ今度はと、俺本体が立ち上がってみる。すると、ゴーグルを装着した俺だけが立ち上がった。意識しなくても、動かしたい方がちゃんと動くようだ。


 俺はゴクリと息を呑んだ——


 も、もしかして、コイツはとんでもない代物なのかもしれない……



 ゴーグルを外し、最後の『【3】アバターのカスタマイズ』のボタンを押してみる。


 すると、両手を水平に広げ、縦軸を中心に回転しているアバターがスマホ画面に現れた。そのアバターを思い通りに、回転させたり拡大縮小などが出来る。ただ悲しいかな、眺めているのは、一糸まとわぬ俺の小太りアバターだ。


 ふむふむ、なるほど……このアプリで、このアバターをカスタマイズ出来るのか……


 どうやら、体形や髪型を簡単に変える事が出来るらしい。しかも、肌を黒くや、筋肉質にするなど、細かい設定も可能なようだ。とりあえずは、気になる腹を引っ込めてみた。


 す、すげえ……


 目の前のアバターの腹が『キュッ』と引き締まった。アバターが、スマホ画面内のカスタマイズ後の姿になったのだ。


 それから小一時間、俺はアバターのカスタマイズに夢中になった。


 ただ、コピー元である俺から逸脱したカスタマイズは出来ないようだった。例えば、「顔を小さく」や「足を長く」などだ。俺はその制限の中で、体は極力絞り込み、髪型はヘアカタログを参考に、手当たり次第に試してみた。


 やばい……


 俺……結構イケてるんじゃないか……?


 芸能人やモデルなんかには及ばないが、中の上、いや上の下くらいの男には見える。少なくとも、33歳という歳には見えないだろう。


 鏡の前で、アバターと並んで立ってみる。


 映っていたのはまるで別人の二人だった。

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