ある日、もう一人の俺(イケメンだけど寿命は3年)がこの世に誕生した話

靣音:Monet

01_俺、誕生

「宅配でーす」


 チャイムと共に、玄関先から声がした。そう、俺の家はオンボロハイツ。集合エントランスみたいな洒落たものは無い。宅配だって勧誘だって、ドアまで直通だ。


 最近インターネットで買ったものは全て届いている。一体、何が届くんだ……? そんな思いでドアを開けた。


「海外からのお届けものですね、斉藤さんでお間違いなければサインお願いします」


 ああ、あの時買ったか——


 サインをし、大きな段ボール箱を受け取る。近頃の配達員は愛想がいい、笑顔で「ありがとうございました」と言うと、軽やかに階段を降りていった。

 

 注文してから、二ヶ月は経っていただろうか。購入をした事なんて、すっかり忘れていた。面白い商品は無いだろうかと、中国のオンラインモールを見ていたときに見つけたものだ。


『RC-AVATAR(リアル コピー アバター)』


 確かそんな商品名だったと思う。ブランド不明のスマートウォッチなどに混じって、ポツンと一点だけ販売されていたものだ。


 キャッチコピーは、「ワンタッチで、もう一人の貴方を作ろう!」というもの。

 

 日本円にして4万円程だったと思う。未だかつて無いほどにFX外国為替証拠金取引で大勝し、その喜びでベロベロに酔っていたはずだ。そうで無ければ、こんなデタラメグッズを買うのは、有名動画配信者くらいのものだろう。

 


 だが、段ボール箱を開封して驚いた。商品が入っているケースがとても立派だったからだ。質感、光沢、デザイン、どれを取っても申し分無かった。思わず「おお!」と声を上げてしまった程だ。


 そのケースを開けるとまず、真っ白でマットな光沢を放つ人形が出てきた。サイズは40cmくらいだろうか、手に取ってみるとズッシリと重い。裏返してみると、背中部分に指がすっぽりとハマりそうな、指紋認証リーダーらしきものがついている。深く考える事無く、人差し指を当ててみた。


 『ピピッ』という甲高い電子音が聞こえた直後、人形は重さを増し、手から滑り落ちてしまった。床に落ちた人形は仰向けに転がり、グングンと大きくなっていく。驚きのあまり、思わず後ずさってしまう程だ。


 人形の拡大が止まると、今度は体のパーツが少しずつ形成され始めた。鼻や性器の部分が盛り上がり始め、目の辺りはくぼみ始める。白いボディは徐々に肌の色味を帯び、頭髪や体毛が生えだした。

 

 こ、これは……完全に……


 俺だ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る