第4話
そして、昨日のお昼休みである。僕は昼ご飯を食べたあと、公園で休憩をしようと会社の外に出た。通りを歩いていると、背後からふいにあわただしい足音が近づいてくる。ふりかえると桜井さんがどういうわけか全力疾走でこっちに駆けてくるところだった。僕に用事があるのかと思ったが、桜井さんは僕のことを無視したのか、気づかなかったのか、スピードを緩めることもなくそのまま血相をかいた表情で、僕をやりすごした。僕は呆然と彼女の背中を見送るしかなかった。ところが、すぐに僕の体は背後から疾走して来た二人の黒服の男に突き飛ばされた。
これはただごとじゃない、と思った僕は起き上がるとすぐに三人を追いかけた。そして行き止まりの路地に逃げ込んだ桜井さんと彼女を追い詰める二人の黒服の男たちに追いついた。
男たちの様子は見れば見るほど異様だった。真っ黒なロングコートを身にまとっているが、そこには襟やボタンのようなデザイン的装飾はなにもなく、まるで体からそのまま生えている羽のように見える。髪型もすごく独特で、そもそも毛というよりも針金か粘土のように硬質な物質が頭の上にのっかっている印象だった。さらに二人はまったく同じ背格好で顔立ちも瓜二つに見えた。
僕は、男たちの背後に立っていたので男たちは僕に気づいていなかったが、桜井さんは僕の存在に気づいていた。桜井さんの目は僕に助けを求めていた。
僕は、とっさに「ドロボー!」と大声を上げた。
男たちが一瞬僕の方へ振り返った。そのすきに、桜井さんはジャケットのうちポケットから銃を取り出した。そして、立て続けに二発を発射し、ふたりを撃った。
桜井さんが拳銃を白昼の大都会で発砲するってこと自体、驚くべきことだが、次の瞬間、さらに信じられないことがおきた。二人の黒ずくめの男が、かすかなうめき声だけを残して、まるで煙のように目の前から消えてしまったのだ。
呆然とたちつくす僕のところへ桜井さんが小走りにかけよってきた。
「すみません、助けていただいてありがとうございます」
桜井さんはいままで見せたことのない満面の笑みをうかべてそういった。
「桜井さん、君はいったい……」といいかけたところで、僕の体はそのまま地面に崩れ落ちた。お腹に激痛がはしったのだ。手をあてると血のりがベットリと手についた。さっき男の一人が振り返ったとき、たしか、自分にむけられた銃口が一瞬見えたことを思い出した。男たちは桜井さんの撃った銃で、神隠しのように一瞬で消えてしまったので、間一髪自分は命拾いをしたとおもったのだが、どうやらそうではなかったらしい。その銃弾が自分のお腹をつらぬいていたのだ。
桜井さんは僕をだきかかえ、必死に傷口を手でおさえてくれていた。僕はうすれゆく意識の中で、桜井さんの声を聞いた……
「藤堂さん、しっかり!――大丈夫、私がきっと守ってみせますから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます