第33話 『願いの果て』

「冗談言わないでっ! なんで、アンタのものにならなきゃいけないの!?」


「ほぅ? 愚弟がどうなってもよいのだな?」


 ジョルジュに締め上げられたジョッシュは、なんとか抵抗を試みた。


「ユウナ……こいつは、人を使い潰すなど露ほども思っちゃいない……。光の巫女を思い出せ……ぐぅ!?」


「貴様は黙っていろ。闇の巫女よ、新世界では余こそ法であり秩序だ。余のものとなり、世界への『贖罪しょくざい』を果たすのだ」


 殺される……! このままじゃジョッシュが……!


……結局、私は『運命』から逃れられない。


 今、まさに『世界か彼か』の二択を迫られてる!


「…………もしアンタに下ったら、彼を見逃してくれるの?」

「ユウナ……!?」


 ジョッシュは驚いて、私を見た。ほんの僅かでも、注意を逸らす必要がある。ジョルジュに『従うフリ』をして、隙を見て『無力化』するしかない!


「ホゥ? それは殊勝な心がけだ。なーに、悪いようにはせんからちこう寄れ」


 目尻が下がるジョルジュを見て、私は比喩ひゆ抜きで背筋が凍った。まさかとは思うけどこの男、“女だったら”誰でもいいわけ……?

 信じっっられない! 何よりこんな奴に『そういう目』で見られてたなんて、吐き気を催す邪悪だね(|||´Д`)


「やめろ……! ユウナに指一本触れてみろ……。俺は貴様という痕跡を、チリ一つ残さず消滅けしてやる……!」


「解剖前のカエルに等しい分際で、笑わせるな。あの世で喚いていろ」


「やれるさ」


 一段と、低い声音を出すジョッシュ。


「俺の内に眠る『魔王の因子』……それを解放すれば、貴様に届く……!」


「……………………っっ!!」


 私が最も恐れてた事態だ。それすらもジョルジュは、鼻でせせら笑った。


「正気か? 一度魔道に堕ちれば、二度とヒトに戻ることは叶わぬぞ?」


「それがどうした? 俺はユウナを選ぶ! 貴様を討った後、自力で魔王の因子を克服してみせるさ。光の巫女サマに、おんぶに抱っこ(笑)の貴様と違ってな!」


 実弟に笑われ、ジョルジュは一気にいきり立った!


「……侮辱は許さぬぞ! 余が『アレ』の機嫌を取るのに、どれほど苦労したと思っている!? もうよいッ、貴様はくとねぃ!」


 瞬間、私は『本能』で叫んだ!



「――やめてぇえぇええええええええええええええええええええええええええええっっ!!」



――キュポーンッッ!!



 私から放たれた『闇の波動』は、ジョルジュを丸呑みした! ジョッシュも、この機に脱出する!


 私の『真の力』……それは歪みを取り込み、力に変換かえること。この世のあらゆる事象をねじ曲げることも可能だ。

 今まで私の『イメージ』に従い、傷をリセットしたり、新しい道具を作ったりできた。


 ジョッシュの言った通り、鑑定は『偽装カモフラージュ』で歪みを操ることこそ、闇の巫女の能力だった。

 『光の加護』は剥がされ、血走った眼のジョルジュが私たちを睥睨へいげいした。


「ヤってくれたなァ? 闇の巫女ぉおぉおおっ! 折角この俺が、この世のあらゆるぜいを味あわせてやろうと思ったのによぉおおっ!?」


 さっきまでの余裕がウソみたいに、粗暴な台詞を吐くジョルジュ。追い詰められた時に『本性』が出るって言うけど、瑤とは天地の差だよ┐(-。-;)┌


「イッとくが『無敵』を解除したからって、イイ気にナルなよッ! 俺がその気ナラ、貴様らごとき片付けるなどワケねーぞッ!?」


「やってみろ。加護なき貴様など、恐るるに足りん。というか、少しは自分の手足を動かせ」


「ハァアァアア!? そもそもお前さえいなけりゃ、万事上手くイッてたんだヨッ! 兄より優れた弟なんざ、イルわきゃねぇだろおぉオォオオオオオオッッ!!」


 ジョルジュがその場で、派手に万歳した! しまった……! 私にはもう残ってる力が……


――ドゴォオォオオオオオオンッッ!!


 轟音と共に総本山は、跡形も残らず消し飛んだ。事前に支配から逃れた人たちが、避難しててよかった……。



 ◇ ◇ ◇


「ん…………」


 私はなんとか意識を取り戻した。全身に重みを感じる……って、ジョッシュ!? なんてことなの……私を庇って、重症を負ったなんて……!


「ジョッシュ……!」


 私は何度も呼び掛けるも、反応はなかった……。辛うじて一命は取り留めたみたいだけど、すぐに手当てしないと危険な状態だ……!


「オゥオゥ、案の定イキてやがったか? まーそう簡単にくたばられちゃ、面白みがねーからな。何より……」


 ジョルジュは彼の襟首を掴み、物みたいに乱暴に投げ飛ばした。


「イマからお前らにヤラれた分、兆倍にシテ返しってヤっからよォ!?!?」


 ジョルジュは彼をサッカーボールみたいに転がし、何度も足蹴りした。お願い、もうやめてよ……。


「闇の巫女、愚弟の次はお前な? 楽にイけると思うなよ? 散々もてあそんでヒトとしての尊厳を奪い尽くした後、二度と復活できねーようにはらわたを喰らってヤンよ」


 ジョルジュはわらってた。それは人間とは思えないほど、醜悪な笑みだった


「しっかし、お前らも莫迦バカだよなァ? 『他人』の為に、力を使い果たしてどーするヨ?? 力は己の為に振るって、ナンボだろーがッ」


「アンタにだけは、言われたくないよ! 『人の痛み』を理解しようともしないアンタに……!」


「痛みねぇ……そーいや俺がク○親父ジジィをぶっ56した時、この上ないカオでイッてたな? アレは今思い出しても、傑作だったわ……!」


 なっ…………父親を手に掛けたの!? ロクでもない国王だったけど、まさか実子に討たれたなんて……!


「……地に堕ちたな、ジョルジュ。確かに親父は残忍だったが、まだ『自らの手』でそれを行ってた……。コソコソと、ネズミみたく逃げ回ってた貴様とは……ぐはぁ!?」


五月蝿ウルセーな。俺の許可ナシにさえずるな。闇の巫女、そこで愚弟の最期を見届けろ。ンでもってフィニッシュは、仲良くお手て繋いでイカせてやる。俺は優しいんだ」



 やめて……私はどうなってもいい。彼だけは……お願い!! 誰か助けて……!



 『誰でも・・・』いいから……!!



「ならその役目、僭越せんえつながら私が引き受けるわ」



 え……? 今の声・・・って……


――サクッ


「…………………………………………あ?」



 ジョルジュの双眸そうぼうが、驚愕に見開かれた。それは、私と彼も同じだった。ジョルジュの背中には、一本のナイフが深々と滑り込んでいた。


 何よりも……


 刺した人物が、死んだハズ・・・・・の西蓮寺 瑤だった。



 ◆ ◆ ◆


 NEXT……ざまぁ回final 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る