第31話 『断罪』

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 ◆ ◆ ◆


 私とジョッシュは街を出て、ひたすら馬で北上していた。オーナーさんらには、“大事な用”があると伝えている。

 正直、ウソを吐くのは気が引けたが、無関係な人たちを巻き込むわけにはいかない。


 私と彼だけで、ケリをつけよう。



 ◇ ◇ ◇


「……あれが総本山か」


 ジョッシュが、馬を飛ばしながら呟いた。私はしがみ付きながら、顔を上げた。一見普通の山なんだけど、異質な雰囲気が漂ってた。

 私たちは山のふもとで馬から降り、慎重に登っていく。なんか異様に静まり返ってない……?


 中腹にたどり着くと……


「待ってたわ、星見 結愛。この時をずっとね」

はるか……!」


 数え切れないほどの信者を背に、西蓮寺 瑤は堂々と佇立ちょりつしてた。


「よく逃げずに来たわ。ここは気に入ってもらえたかしら? 貴女との『最終決戦』に相応しいでしょ?」

「ふざけないで! こんな短期間に、どうやって戦力を整えたの!?」


 王国が崩壊して、そんなに日は経ってないハズなのに……。


「私の『カリスマ』の能力を持ってすれば、容易いことよ。ちょっと魔力を流すだけで、あっさり『操り人形』にできるわ」


「……王国よりタチが悪いな。人をなんだと思っている?」


 ジョッシュが鋭く睨むも、瑤はどこ吹く風だ。


「食物連鎖も知らないの? 捕食者がいちいち、被食者なんて気にするかしら? そんなことより」


 パチン! と瑤が指を鳴らすと、信者は一斉に身を引いた。


「……なんのマネなの?」


「ハッ! この私が弱者の力を借りるとでも? さぁ来なさい、因縁に決着をつけましょう!」


 因縁って、毎回そっちが絡んできただけでしょ? 瑤は勢いづいてたけど、二対一で最初から防戦一方。徐々に追い込まれた。


「くっ……この私が! でも、追い詰められたのは貴女たちよ!」


 ハァ? この期に及んで何を(-ω-?)


「私は救世主ジョルジュに、膨大な魔力を貸与してるの。それがいっぺんに帰ってきたら、どうなるかしら?」


「なんだと……?」


「これだけの信者の数! 貴女たちなんて、物の数ではないわ! 星見 結愛っ、私の勝利かちよ!!」


 瑤は一方的に『勝利宣言』をした。が、特に何も起こらない。


「……………………あら?」


「どうした? やるならさっさとしろ。後がつかえてるんだ」


 ジョッシュに急かされて、瑤は焦った。珍しく『余裕がない』感じだ。


「こんなハズが……! ジョルジュ、視てるんでしょ!? 『約束』が違うじゃない!!」


 ヒステリックに叫ぶ瑤。けど、ジョルジュは一向に姿を見せない。


「……なんで出てこないのよ!?」


「分からないのか? お前は棄てられたんだよ」


 ジョッシュの冷めた一言に、瑤は青ざめた。


「まさか……あれほど『協力』したのに!」


「残念だが、お前は『あの男』を買い被り過ぎだ。『用済み』と判断すれば、容赦なく切り捨てる。元国王オヤジと血は争えないな」


「そんな……父親にされた仕打ちを私にするなんて!」


 私たちの知らないところで何があったか知らないけど、まぁいい気味だね。


「ウフフフフフフ……」


 しばらく俯いて、泣いてたと思ってた瑤が急に笑い出す。やっぱり、そんなタマじゃないよね(-_-;)


「ついに壊れたか?」


「アハハハハハハッ、見くびらないで頂戴! 私は『光の巫女』よ!? 最後の輝きを燃やし尽くして、ご覧に入れましょう!!」


 まさか『自爆』する気なの……!? 瑤の全身が目映く発光するも、それは一瞬だった。徐々に光は弱くなり、棒立ちする瑤。


「なっ……なけなしの魔力すら徴収されるなんて……。あの男は私をなんだと……くっ」


「あっ!? 逃げた!」


 私たちは、瑤を追いかけた。崖のふちまで逃げたが崩れ落ち、急斜面で蹲踞そんきょする体勢となった。

 まるで今までの悪態を、懺悔ざんげしているようにも見えた。


「この私が……こんな無様な『最後』を迎えるなんて……!」

「本当に最後の最後まで、世話が焼けるね? 落ちたくなかったら、そこで大人しくしてなよ」


「ふざけないで頂戴っ! 本来なら、貴女がこうなる運命なのよ! 『元の世界』じゃ何一つ、私に及ばないクセに!」

「そうだね。けど、アンタと私じゃ『決定的』な違いがあるよ?」


 瑤は「……?」と顔を歪めた。本当に分からないかな。私の側には、ジョッシュがいてくれた。対して瑤は……


「最初から最後まで、“利用”されてたんだね……。でも、同情されるのはキライなんでしょ?」


「くっ……星見 結愛、貴女もいずれ、私と同じみちをたどるわ! せいぜい泣きついて、許しを請うことね……!」


 もう言ってることが、支離滅裂だね┐(-。-;)┌


「それに『悪役令嬢わたし』が向かう先は、破滅じゃなくて『不滅』よ! 何者にも侵されない……あっ」


 ここで瑤はバランスを崩して、奈落へと墜ちていった。あまりにも、呆気ない『光の巫女』の最後だった……。


「……アイツ、結局何がやりたかったんだ?」

「今となっちゃ分からないよ。けど、私は決して瑤みたいにはならない」


 何もかも『正反対』だった私たち……でも何が待ち構えていても、私と彼の『選択』は揺るがない。



 今は……前へ進もう。ジョルジュを止めに。 

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