第10話 調査2日目① やれることがないんです

 私は目を開ける。


 背中には違和感がある。


まだここに来て2回目の睡眠であるが早くもフカフカのベッドが恋しい。


体を起こし首を回しながら肩の感触を確かめる。


幸い頭痛や倦怠感は治まっており今日の調査にも参加出来そうである。


私が寝過ごしてしない限りは2日目の調査ということになる。



「目覚めはどうだ。リリー」



 私を囲むように寝ていた大狼が起き上がった。



「おかげ様で体調は良いですよ。ルガーこそ具合は悪くないですか?」



「ああ、オレの方も問題ない。心配かけたな」


「よかったです」



 私はルガティの首元に抱きついた。



 ご主人様の夢を見たせいか、少しだけ寂しさが込み上げてきたのだ。



 私はそれから彼に寝過ごしていないかの確認と昨日ローズの領域であったことを共有した。


 ルガティは私が無事に帰って来れたことを褒めてくれた。


ローズが本気で殺しに来てはいないものの領域という魔法使いの絶対的な空間の中で戦えたのは良い経験になった。


それと同時にもう2度と経験したくないぐらいのトラウマは背負うことになった。


しかし、相手の領域で戦いたいとかいう悪趣味な魔法使いは変わり者であるか命知らずな者なので恐いという認識ぐらいの方が良い気もする。



「そういえば、ローズさんはどうなりましたか」



 私が領域から出た所で力尽きてしまったせいでローズにとんでもなく酷いことをされたとエリカに誤解されてしまったのだ。


「あの後追いかけたみたいだが捕まえられたかはオレも知らねぇな」


 それは心配である。


命懸けの末に掴みかけたカギなのだ。


こんな所で無くしてしまいたくない。


 どちらにせよ今日の調査の集合時間になればわかることなので考えるのやめた。









「ネリネちゃんおはよう! 体調はどう?」



 会議場所に行くと真っ先にエリカに声をかけられた。


「バッチリです。ご心配をかけて申し訳ありません。今日の調査にも参加出来ます」


「よかったよー」


「それとローズさんの件なのですが──」



 私が誤解を解こうと彼女の名前を出すと、背筋に寒気が襲ってきた。



「っぁひゃ!」


「ネリネちゃん。おはようね」


 煙と共にローズは私の背後ピッタリの位置に現れた。


後ろから腕を回されながら唇を指先でなぞられた。



「あんた! ネリネちゃんから離れなさいよ!」


 エリカは右手の掌から火の玉を出す。


私の方へ向けて発射する構えをとる。



「エリカさん待ってください! 私はローズさんに何もされてませんよ」


「いいのよ、こんな奴庇わなくても」


 聞く耳を持ってはくれなかった。


 その今にもこちらへ向かってきそうなファイアーボールは本当に私を避けてローズに当たるのだろうか。


私の盾のことを知っているので、


もしかすると当たっても問題ないと思っているのだろうか。


 私はローズに弁明するように求めた。



「あの子聞く耳ないじゃない無駄よ」



 エリカは燃え盛る火球を掌から射出する。



 しかし、火の玉は突然私の前に現れたドラセナによって掻き消された。



「……揉めるのは良くないよ。調査は人手が多い方がいいし」



「ドラセナくんは見ていないの? この女ネリネちゃんに酷いことしたんだよ」



「そうだとしてもそれは彼女たちの問題だよ」



 エリカはぷいと顔をそっぽに向けると会議場の指定位置に戻っていった。


 それを見たローズもニヤリと笑みを浮かべると私の側から離れた。


小声でまたねと言われた様な気がする。


 私は歩き出したドラセナに向かって感謝の言葉を伝えたが、反応はなかった。


 良くは思われていないらしく少し悲しかったが私も指定の位置に行く。



「気を取り直して、2日目の調査始めよっか!」


 エリカが進行を引き受けてくれる。


私もローズもドラセナもリーダーシップを取れる様なタイプではないことは少ないやり取りの中でも十分判明しているのでエリカみたいなタイプが居てくれて非常に助かる。



「まずは情報共有から始めようか」



 私が新たに手に入れることが出来た情報はエリカとドラセナの調査報告であった。



 彼女達は魔力の残滓による汚染が酷い大地を掘り起こしてみたらしい。



 だが、成果は持って帰れなかったそうだ。


魔力反応を探しながら掘り起こす場所を決めたそうだが、魔力の残滓が邪魔をして微量の魔力反応の差を感知出来ずに困難だという結論が出たらしい。


 ダウジングマシーンを使わずにお宝を掘り起こす行為と捉えれば無謀さは明らかであった。


 空の次は地中。


調査の根拠はある様な気がするが成果を隠している場合があるので疑わなければならない。


 逆に私が共有しなければいけないのはローズとの調査内容であった。



「なんで調査対象がローズの領域なの?」


「エリカさんとの調査から少なくとも拠点の周辺には何もないことがわかったので、ローズさんは魔力の残滓について何かを隠しているようだったのでそれを探る目的です」



 領域から出るのに必死で情報はほとんど手に入らなかったと嘘をついた。


「それであの状態だったわけね。それでローズに聞きたいのだけど、もし私が貴方をペア調査に指名して領域に入らせてほしいと言ったら許可してもらえるのかしら?」


「ええ、いいわよ。ただ生きて帰れるという保証はしないけどね。ただそのかわりペア調査の時に指名した相手の領域を調査対象に出来るというルールは作ってほしいわ」


「私はいいけど、ネリネちゃんとドラセナくんは?」


「いいですよ。私のテントは領域ではありませんが、それでも調査したいというなら」


「僕もいいけど。それは調査が遅れる原因にもなると思う。だから領域に入った2人は何か情報を隠しているものだと疑いの目は向けさせてもらうよ」


 心痛い言葉である。


「よし、じゃあそれで決まりだね。いよいよ本題! 今日はどこを調査する?」


 まずはソロ調査だ。


前回は方角でなんとなく決めたが今回はどうしようか。


 本来であれば各々が気になる所を言っていくのがいいのだろうが、情報が無さ過ぎて怪しいところがわからない。


私としてはローズと早くペア調査がしたい。



「私はもう少しこの周辺を調べてみるわ」



 ローズは魔力の残滓を取り込んで変わる世界とやらを見にいくのだろう。


「僕は昨日のダウジングを続けようかな」


 ドラセナはやはり昨日のエリカとのペア調査で何かを見つけたらしい。


「ネリネちゃんはどうする?私も手掛かりなさ過ぎてどこを調べればいいかわからないんだよね」


 確かに私と彼女は情報を持っていない側に思えてしまう。


「私は魔力感知が出来るわけでも、広範囲を探しに行けるほどの移動手段があるわけでもないんです。だから今回のソロ調査はパスしてもいいですか?それが困るならば情報を持っている人は開示してください」



「別にパスでいいよ。何か勘違いしているようだけど僕たち協力なんてする必要ないでしょ。それに魔法が使えないなら役に立たないだろうしテントで休んでなよ」


 ここまであまり強気な発言をしてこなかったドラセナからの一言であった。


想定していなかった返答に面を食らってしまった私に変わって隣の狼が低い声を鳴らしながらドラセナに近づいていく。


「ちょっとー、喧嘩はやめようね。とりあえず解散ね。それぞれ出来ることをやること! みんな次の集合時間守るんだよ」


 私とルガティ以外の3人は霧散するように消えていった。


「どうしましょうかルガー、私は何をすればいいですか?」


「落ち込むことないぞ。リリーがやりたいことをやればいいと思う。それに今ならマークもされないだろうし動きたい放題じゃないか」


「私のやりたいこと──」


 私はとにかくご主人様につながるような情報が欲しい。


ドラセナは協力する必要がないと言ったが、自分で見つけることが出来ない私は誰を頼るしか方法はないのだ。


それが私のやり方だ。


「ルガーついてきてくれますか?」


「ああ、どこへだっていくさ」









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