全感覚器不能の小説家

水町 啾魅

その日、世界は消えた

第1話「その日、世界は消えた」

 その日の朝、私が起きると、世界がなかった。目の前は真っ暗で、何の音も聞こえない。何の臭いもしないし、何の味もしない。そして、何かに触れている感覚もなかった。私は、自分が置かれている状況を理解するのに、数分の時間を要した。



―前日―

 私の名前は「高坂咲希」。ちょうど今、高校二年の3学期の後半だ。私は、全寮制の学校に通っていて、普段は寮で寝泊りをしている。私は、寮が好きで、普段の生活が、とても楽しかった。今、私は勉強で忙しいが、そんな中でも、毎日の生活を楽しめている。


 寮では毎朝、6時に起きていて、朝ご飯を食べた後、掃除や身支度をし、登校する。起床時刻は早いが、この生活を続けていると、段々と慣れてくる。私の後輩の中には、起床時刻になっても起きられない人がいるが、まあ、そこまで心配する必要はないだろう。


 もちろん、全寮制といえども、月に1回程度、5日間くらい家に帰るときがある。生徒の中には、毎日この”帰省日”を楽しみにしている人もいるが、そうでない人もいる。私の場合は、帰省も帰寮も嫌いだ。寮にいるときは、家が恋しくなって、家に帰ると、寮が恋しくなる。季節と同じだ。


 私は今日、いつもより少し早く寝た。疲れていたからだ。そして私は今日、不思議な夢を見た。私が、まるで目隠しでもしているかのように、床を転げまわり、壁にぶつかりまくっている夢だ。そして、寝ているうちに、何だか気持ちよくなっていった。体中の疲れが取れ、体が軽くなった。例えるならば、寝返りをうった瞬間のような感覚だ。ただ、その感覚は、一瞬ではなく、ずっと続いた。私は、眠りながらも、夢の中でその感覚を感じ続けていた。



―その日―

 朝起きても、その感覚は続いていた。私はそっと目を開けようとした。だが、”目が開かない”。そして、目覚めてから少し経つと、今、自分の周りが静寂で包まれている事に気づいた。音も、匂いも、景色も、皮膚の感覚も、何もなかった。


数分経って、私はやっと気づいた。”私は、死んでいるのだ”。

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