恋する小樽、夢見る東京「葉月の恋物語」

神崎 小太郎

第一話 逡巡の航路


 小樽に向かう列車から外を眺めると、一羽の渡り鳥が青く広がる海に向かって飛んでおり、岩場に押し寄せる波は、潮騒を奏でている。その隙間を駆け抜ける列車の鼓動が足元から伝わってくる。


 故郷は遠く、思い出は心に残る。悲しみを詠うこともあるが、それは今目の前に広がる故郷の風景とともに、東京への憧れを強くする。―――忘れかけていた室生犀星の言葉を思い出し、私の心は揺れ動く。


 都会にあくなき憧れを抱きつつ、小樽で読書と絵画の世界に明け暮れる日々を送っている。人見知りの私にとって、それは自分だけの安らぎの時間だった。


 東京とは、どんな街だろうか……。


 授業が終わると、私は真っ白なキャンバスを抱えて、夢を追いかける。船見坂に駆け上がり、息を切らせながら、絶景の場所にたどり着く。そこから見える海と運河の美しい風景は、静かな余韻を残してくる。


 小樽の港から届く汽笛の音は、遠く離れた東京への想いを強くする。「わたしも一緒に連れて行ってよ」と呟きながら、私はキャンバスに青い海と旅客船を描く。その音色は、私の心に響き渡る。


 船は渡り鳥のように、夕日に染まる煙を黄金色に輝かせ、新しい冒険へと誘う。その誘惑に負けて、小樽を離れたとき、青い海はどんな景色を私に見せてくれるだろうか……。


 


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