史上最強の炎精の能力を体に宿した僕ですが、いろんな人を救っていたら、いつの間にかハーレムになっていました。さて、どうしましょう。

下手な小説家

第1話 

──。

死に対して、恐れや怖さが無くなったのはいつ頃だっただろうか。

あれから三ヶ月経った頃だっただろうか。

分からない。だが、自分でも気づかぬうちに適応していったのは事実だ。


僕の名前は来栖蜥蜴クルスセキエイ

体がちょっとおかしい、ただの人間──…。


高校生の僕は、いつもと何も変わらない帰り道にいた。


友人も普通にいる。兄弟と呼べる人はいないが、両親と呼べるものはいる。

他の人と何も変わらない一般的で、健全な日本男児の内の1人である。


「ふふ。やっと見つけましたよ。実験体S」


いつもの通りの帰り道に、いつも通りではないことが起きる。


声をかけてきたのは見知らぬ中年男性。

無精ひげを生やし、目の下はクマのせいでうっすらと黒みがかっている。

服装は、いかにも科学者っぽい白衣を着ているが、下半身にはジーンズを身に着けている。


しかし、僕の事を実験体Sと呼んだということは、三カ月前の出来事に関係がある人物なのだろう。


「だれですか、おっさん」


「おやおや、『だれ』とは随分な物言いですねぇ」


相手はコチラの事を知っている様子だった。

彼は不気味なオーラを漂わせ、空を凝視しながら話す。


「もう忘れてしまいましたか?」


──忘れるはずが無いだろう。忘れられるはずが無いだろう。


「では、自己紹介を。動精ドウセイ研究所3番所所属。鵜飼 鴆ウカイ チンと申します。以後お見知りおきを」


「僕の名前は──」


「あぁ。大丈夫です。そちらの情報はすべて把握しているので」


すべて。なんて気持ちの悪い言い方をしていたが、前口上を聞くに、少なくとも僕の一番の隠し事を知っているのは確かだろう。


「で、用件は?」


彼が次に何を言うのかの検討はついていたが、相手の言い分を聞くことにした。


「おやおや、もう貴方の中では次に私が何を言うのかなど、見当がついているのでは?」


なんだか、話づらい相手というか、すべてが見透かされているようで気持ちが悪いというか。そんな形容しがたい思いが僕の体を駆け巡っていた。


「それでも、口に出すのは大事だろ?」


「ふむ。そうですね…」


彼───鵜飼が右手を顎にあて、わざとらしく考えるポーズを作る。


「まぁ…御託を並べてもしょうがないですからね。単刀直入に言いましょう。来栖 蜥蜴、私は貴方を捕らえに来ました」


捕らえに。と言っているが、彼の体を見る限りでは、武器になりそうなものは何も持ち合わせていない。


「因みに、どうやって捕まえるんだ?」


「あぁ…正確に言うと、捕らえるのは私ではないですよ。彼女です」


と言い、指をパチンと鳴らすと、上空から飛んでいる女の子が現れる。


「MASTER…ヤッテモヨロシクテ?」


片言な日本語を使う彼女は、今まで僕と話していた鵜飼に許可を求める。


黒色を基調した髪に黄色のインナーカラーの入っている。鎧の様な物を纏ったその見た目は、スレンダーな彼女の体を良く映えさせている。首元にある紫色のペンダントは、怪しく光を発し、何か不気味さを感じるものだった。


「あぁ。やれ」


鵜飼は強い口調で彼女に命令する。


了解シルヴァ


ワンテンポ遅れてその言葉に反応した彼女は、上空でホバリングするのをやめ、コチラに襲い掛かって来るのだった。







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