檸檬爆弾
彼岸 幽鬼
プロローグ
「やっと……着いたー!」
荒れ地の広がる場所で少年の声が響いた。サイバーパンク風の服装をした少年の前には長方形で真っ黒な建物がある。
「あまり騒がない。魔物や暴走した魔導兵器に見つかったらどうするの。」
スチームパンク風の女中服を着た女性が小さな声で注意した。
「魔力感知には何も引っかかって無いから大丈夫ですよ。」
少年は安全を主張した。
「はぁ……。」
女性は深いため息をついた。
「でも、この建物が目的地の魔導書庫で間違いなさそうだけどなぁ…。入り口が見当たりませんね……。」
少年は黒い外壁を触り、念入りに調べている。
「見てみてよ!この建物、自己修復素材を使っていますよ!MTも触ってみてよ!」
少年は無邪気な様子ではしゃいでいる。
「私たちアンドロイドの体にも修復素材ぐらい使われてるじゃない。それにホープの方が貴重な素材で出来てるはずだけど。」
「違いますよ…、古き時代に思いを馳せる事こそ意味があるんですよ!」
「理解不能……。それより、入り口は見当がついてるの?」
女性は少し面倒くさそうな様子だ。
「見当はついていますとも!この壁には、何個か隠しボタンが設置されています。恐らくこのボタンを押す事で何らかの装置が作動します。」
「そんな怪しいボタン、触らないで……。」
「えっ……、もう押しましたよ……。」
二人は顔を見合わせた。
「魔導書庫スキャンプログラム起動。スキャン開始。」
建物から音声が流れた。
「大丈夫よね……。」
「資料の記述と合致しているので、大丈夫だと思います……。」
不安な様子の二人を横目に再び音声が流れ始めた。
「スキャン結果、敵意なしと判断。魔導書庫へのアクセスを許可。アクセス許可に応じて転送プログラム起動。これより魔導書庫内へ転送を開始。」
二人の足元が白く光った。
「うっ……。」
あまりの眩しさに目をつぶった。数秒後に目を開けると、周りには本棚が並んでいる。正面には読書用の長机と椅子が用意されている。
「普通の図書館とあまり変わらないじゃない……。」
「いえいえ、魔導書庫と言うのは2000年前には存在していたと考えられています。そしてその当時からの古い文献が眠っている可能性があるので、普通の図書館と同類にしては困ります!」
「はいはい。」
女性は適当な返事で少年の熱弁をあしらった。
「とりあえず、我々の目的である魔法の起源についての文献を探しましょうか。」
「この中から探すの……。」
長机を真ん中にして、その周りには本棚が無限と思えるほど並んでいる。そして二階に上がれるであろう階段もある。
「書籍物検索プログラム起動。魔法の起源についての文献を検索。」
また建物から音声が流れた。
「もしかして、僕たちが探さなくても良さそうですね。」
「一つのデータが検索にヒットしました。中央の机に転送。」
「さすが、魔導書庫ですね!これが2000年前に造られたとは思えませんね!」
少年は目を輝かせいる。
「確かに……。」
女性は腑に落ちなさそうな様子で少年の意見に同意した。
中央の机に近づくと、また音声が流れた。
「この記録は檸檬爆弾の詳細を記した一人称視点のデータである。この記述は五十嵐良介という魔力研究者、博士の称号を有する者の視点である。この世界に魔法の時代をもたらした当時の詳細な出来事を記した記述のため、持ち出し又は無断転載、複製等を禁止する。以上、魔導書庫管理プログラムからの取扱説明を終了する。」
「なるほど…、中々貴重そうな書物ですね。」
長机の上に少し汚れた原稿用紙がある。書物の題名は『檸檬爆弾』と書かれている。二人は椅子に座り読み始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます