第142話『血盟』






 安倍晴明の使役し十二柱の式神――――――十二天将。

 清明は自身の寿命が尽きる前、今後起こりうる争いの「抑止力」になるよう、腹心十二人の門弟に継承した。

 門弟達―――――それはやがて十二家紋と呼ばれることとなった一族らは、清明から継承した式神を「相伝」として、次代へと伝承していった。


 その、黎明。

 遠くは平安の世、語るは追憶の彼方。

 十二天将はそのもたらす効果故に、強大な影響力を持つ。

 十二家紋同士、他の一族の十二天将を狙い、争いが生じる可能性も無きにしも非ず。

 現に数度、陰陽師同士の衝突が生じた記録も宮廷には残っていた。


 後世の安寧を願い、託された式神が争いの火種となる―――――。

 清明の意を汲み、当時の当主たちの出した結論。


 それは、―――――十二天将と使の契りを交わすこと。


 ―――――『血盟』。

 それは読んで字の如く、である。


 必要な要素は―――――「血」と「霊力」の二つ。

『血盟』の成立には、その血―――――つまりは遺伝子。

 そして十二家紋の当主たる、家督を受け継ぎし霊力の両方が必要。

 術者自身の血縁の情報と、霊力に感応し、式神を発動する仕組みに他ならない。


 十二家紋同士、協定を結ぶことはあっても、これまでに表立って対立することが無かった要因でもある。


 そして。


 特筆すべき点が一つ。

 一度結んだ『血盟』は、盟約を結んだ血縁が、その効力を発揮する――――――。





 ***




「――――――――!!!」




 ―――――何だ、これ。

 右手の甲に浮かび上がる星形の紋章―――――。


『……五芒星セーマン

 清明様の式神、という意味じゃ』


 それだけじゃない。

 全身の痛みが、引いてゆく。

 今の今まで立っているのもやっとだったのに、むしろ体が軽い。

 そして全身から立ち上る、この

 濃度、というか密度……?というか。

 とにかく、俺一人の霊力とは明らかに異なる類のモノで体が包まれていた。

 すると、俺の表情を見て考えていることを察したのか、天后はその口に笑みを浮かべる。


『私たちの間に霊力のができたのじゃ。

 加えて……、私は世にも珍しい自立型の式神。

 式神操演を行う必要がないのじゃ!』


「式神そう……なんだって……?」


『要するに、私は私で勝手に闘うから、お前も自分自身の動きに集中せい!ということじゃ』


 そう言う天后の全身からは目を疑うほどの霊力が立ち上り、大気をチリチリと震わせている。

 とてもじゃないけど、「回復した」というレベルじゃない。


『私は『式神』、術者がいて初めてその力を引き出せる。

 との、―――――。

 の力を引き出すには十分すぎる条件じゃな』


 天后は俺の前に歩みを進め、ゆっくりとこちらへ向かってくる白髪を前に不敵に笑う。


『奏多、仕上げじゃ。

 言霊を以て、『血盟』は完了する』


「……あぁ」






 ――――――。

『血盟』を結んでしまったら最後、俺は式神を統べ、魔を滅する、「陰陽師」と呼ばれる存在になる。


『後悔する』と、天后は言っていた。

 多分、なんだと思う。


 俺は、何も知らない。

 陰陽師のことも。

 式神のことも。

『血盟』を結ぶことの意味も。

 その、重要性も。

 まともな尺度も持ち合わせていないからこその判断だ。


 でも、俺は――――――。


 既に倒壊してしまった拝殿の方を目の端で捉える。

 ―――――来栖。



 そして、目の前に立つ天后。


 俺が選んだことを、不正解にしたくない。

 


 間違っていなかったと、――――――思いたい。




「――――――天后、行くぞ」






『近衛奏多の名の下に、『血盟』を受諾せよ』




 天后の霊力が、―――――揺れる。




『十二天将『天后』、――――――急急如律令われにしたがえ


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