『エピローグ』



 時刻は、逢魔刻を過ぎた頃。

 空は藍色に染まり、西からは満月が顔を覗かせている。


 病院からの帰り道を、一人歩いていた。

 大勢の人が道を闊歩し、思い思いに帰路へとついている。

 夜間の都市封鎖ロックダウンも終わり、心なしか道行く人の表情も晴れやかに見える。


 その中に、チラホラと見える狩衣姿の陰陽師達。

 今日も今日とて出撃するのだろう。

 先生が巻き起こした霊災の影響により、新都の磁場の異常は引き続き続いていた。

 危険度は低いものの悪霊の現界は未だ継続中。

 陰陽師の役目はまだまだ……ある。


「あっつ……」


 歩いているだけで背中が汗ばむのを思えば、もう季節は夏と言ってもいいのではないかと思う。

 変わってゆくもの、そして、―――――変わらないもの。

 目線を周囲に動かすと、建物を再建している人たちが見えた。

 みんな、前を向いて歩き出している。

 希望を忘れずに、生きている―――――。





 あの霊災から、一ヶ月が経った。

 あの日、あの時、あの瞬間を境に。

 俺は……、仁の姿を見ていない。

 辛うじて知っている連絡先に連絡してみても返事はなく、そもそも新都にいるのかも分からなかった。

 時間が経過するにつれて……自信が無くなる。

『狐』……いや、黛仁という陰陽師の存在。

 その名の通り、狐につままれたのではないのかと疑ってしまうほど。






 住宅街に歩みを進めると、人通りはぐっと減った。

 むしろ歩いているのは俺ぐらい、と言ってもいい。

 こんな時間に一人で外を歩けるなんて、ちょっと前じゃ考えられなかった。





 ―――――不意に。


 俺は、目線を上方へと動かした。



 が、空を横切った感じがしたから。







 そして。



 俺は見た。



 遙か新都の上空を。




 『狐』が、駆けていくのを。




「……!」




 陰陽師達の夜が。



 ―――――また、やって来る。








 


 

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