第2話 あの時の事、覚えている?
放課後。
授業終わりの
これから日向と下校することになっていたが、少し気になる事があった。
それは別のクラスの風香の存在である。
今日はタイミングが上手く掴めず、朝以降、風香と関わることができずにいた。
湊は一旦、手を止め、悩み込んだ顔をする。
「どうしたの? 今日、一緒に帰る予定でしょ?」
隣の席の彼女――
「そうなんだけど、ちょっと気になる事があって」
「どんなこと?」
彼女は首を傾げていた。
「……いや、なんでもないよ」
湊は首を振って、誤魔化す。
「じゃあ、早く行こ」
「うん……そうだな」
湊はしぶしぶと頷いた。
「ねえ、日向。今日は一緒に帰らない?」
「ごめんね、今日は用事があるの」
「そうなの? じゃあ、しょうがないね。だったら、また別の日に誘うね」
日向はクラスメイトの友人から声をかけられていたが断っていた。
日向は人気があり、人間関係が幅広いのである。
一緒に帰宅したい人も多いだろう。
「断っても良かったの?」
「いいの。今日は、湊と会話したいことがあるし。それに、あの子たちとは別の日でも遊べるしね」
彼女は愛嬌よく話していた。
「それより、準備は終わった?」
「ごめん。今すぐに終わるから」
湊は課題を通学用のリュックに詰め込んでチャックをしめた。
「じゃ、行こ」
「行き先は決まってるの?」
「うん、私がよく行くお店があるの。そこでいいかなって。丁度、そのお店で期間限定の商品があるからね」
「宮崎さんは、期間限定の商品には目がない感じ?」
「そうかも。期間限定なら一回くらいは食べておかないと損した気分になるからね」
日向と共に教室を後に、廊下に出る。
廊下には、これから帰宅する人で結構混んでいた。
放課後の時間帯は、廊下周辺で別のクラス同士とやり取りをしている人らが目立つ。
そんな中、チラッとだけ、
彼女は自分がいるところから、数メートル離れた場所にいて、すぐに関われる距離ではなかった。
帰る前に、一回でも話しかけておこうと思ったが、その時、風香の近くに一人の男子生徒が表れていたのだ。
風香は、その男子と会話していた。
幼馴染とは少し距離感が出来てしまったかのような、嫉妬染みたショックを感じてしまったのだ。
「何かあった?」
「いや、なんでもないから……もう行こうか」
湊は現実から目を背けるように、風香の方へ背を向け、廊下を歩きだした。
二人は学校を後に、街中にあるチェーン店のファミレスへやってきていた。
平日の現在、そこまで混んでいるような様子はなかった。
湊と同年代で、別の学校の人らがチラホラと視界に入る程度。
「お客様は二名様でよろしいでしょうか?」
店内に入った直後、店の奥から出てきた女性の定員から出迎えられたのだ。
「はい、二名でお願いします」
日向が受け答えしていた。
店員の指示に従い、二人は窓際の席へと向かうことになったのだ。
テーブルを挟み、二人はソファに座る。
「メニューの方は、こちらの方にありますので。お決まりになりましたら、呼び鈴を押して頂ければお伺いします」
店員はテーブル上のメニュー表を示し、説明が終わると、ごゆっくりどうぞと一言告げて立ち去って行ったのだ。
「ねえ、何がいい? 私ね、この期間限定のパフェを食べてみたかったの」
日向が示すのは、夏限定のバナナチョコレートクッキーパフェだった。
普段よりも増量で、海外から取り寄せたクッキーがトッピングされた新商品。
「パフェが好きなの?」
「うん。やっぱり、ファミレスなら、こういうのを頼まないとね。湊って、ファミレスってよく来る方?」
「いや、そこまで頻繁ではないけど、たまには来るかな」
ファミレスは小学生の頃は結構訪れていたが、高校生になった頃には殆ど利用する事はなくなっていた。
昔は、小学生限定の商品とかもあって、それ目当てで家族と利用していた時期もある。
高校生になった今では、ファミレスよりも、ハンバーガーのようなファストフードやコンビニを利用する事が多くなったと思う。
「湊は何にする? ここのハンバーグって、かなり美味しいんだよ。結構、おすすめ」
日向はメニュー表のハンバーグの写真を指差していた。
「そうなのか」
「そうだよ。注文する時にグラム数を選べるし、お腹が減っていないなら、少ないグラム数を店員に伝えればいいし」
「じゃあ、少しだけ頼むかな……でも、サラダバーもあるのか」
「どっちでもいいんじゃないかな。ここのサラダだけでもお腹を満たせると思うから」
「んん、だったら……でも確か、親が遅くなるって言っていたし、ハンバーグの方でいいかな」
湊は決めた。
日向も丁度決まったようで、湊は呼び鈴を押したのだった。
注文を終え、日向は水を飲んでいた。
「それで、俺と話したい事って何?」
「それはね、湊に告白した理由を話そうと思って」
日向は改まった感じにコップをテーブルに置くと、湊の方を見つめてきた。
「湊って、去年の事って覚えている? 去年の文化祭の時のこと」
「ああ、文化祭か」
「あの時、湊って私の事を助けてくれたじゃない。急に私が体調を崩してしまった時、保健室に運んでくれたり」
「それ、覚えていたの」
「うん。あの時は意識がなくて、全然わからなかったけど。後で、保健室の先生から聞いたの。湊が背負って運んできてくれたって」
「保健室の先生が言ったのか」
「そうだよ。あの時、助けてくれなかったら、私どうにかなっていたと思うし」
去年の文化祭。
日向は本校舎とは違う部活棟で文化祭の準備をしていたのだ。
彼女は一人で作業していて、夕暮れだったこともあり、殆どその時の部活棟には人がいなかったのである。
たまたま部活棟にある図書館帰りだった湊が、彼女の姿を目撃したことで、保健室に運ぶきっかけとなったのだ。
湊は一応、保健室の先生に、この事を日向には伝えないでほしいと告げていた。
こんなにもパッとしない自分が助けたとなったら、気分悪くすると思ったからだ。
でも、今、ファミレスで対面上の席に座っている日向の瞳は輝いていた。
この彼女の想いは受け入れるべきなのだろうか。
湊は言葉に詰まり、一旦心を整理するために水を飲むのだった。
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