月夜の誰何 ~自衛隊あるある物語~

神楽堂

第1話

地面に掘った穴から顔を出し、89式小銃を構える。

日はすっかり落ちた。辺りには街灯などあるはずもなく、真っ暗。

月は出ているものの、欠けている。

辺りを照らすには不十分な明るさだ。

よって、耳を澄まして探るしか無い。

穴の中には、俺の相方バディが反対方向を監視している。

会話は厳禁。

敵にこの場所を知られるわけにはいかない。


俺の鉄帽テッパチは、偽装のための草を付けている。

顔には茶色や緑色のドウランを塗っている。


* * *


不意に、前方の茂みからカサカサと音が聞こえた。

俺はバディに耳打ちした後、穴から出て探りに行った。


小銃を構え、誰何すいかする。


「誰か!」


返事はない。


しばらく待っていると、茂みから物音がした。

近づいてみると、そこにはキツネがいた。

キツネは、俺の顔を見るなり、素早く奥の茂みへと走り去っていった。


やれやれ。

キツネに誰何すいかしてしまうとは。

なんだか恥ずかしい。

しかし、山の中なのだから、野生動物に遭遇するのは当たり前だ。


俺は穴に戻ろうと踵を返す。


ザッ ザッ ザッ ザッ ……


何者かが草を踏み分け近づいてくる音がする。

野生動物ではない気がする。



音のする方を凝視する。

しかし、何も見えない。


油断なく小銃を構え、俺は近づく。


ザッ ザッ ザッ ザッ ……


やはり、人の足音だ。

俺は誰何すいかする。


「誰か!」


音が止まった。

誰何した声は聞こえているようだ。

緊張が高まる。


慎重に前進してみたが、足音の正体を突き止めることはできなかった。



ガサッ


別の茂みから音がした。

そっちに行ったのか。


俺は小銃を構え、その茂みに近づき、再び誰何した。


「誰か!」


しかし、その茂みからは何の反応もなかった。


背後に気配を感じる!


俺はとっさに振り向いたが、やはり、何も見えない。

敵はこっちにいるのだろうか。


「誰か!」


三度みたび誰何するも、返事はない。


野生動物だったのであろうか。

俺は諦めて穴の方へ戻った。

穴からは、バディが顔を出してこっちを見ている。

結果を知りたいのだろう。

俺はかぶりを振った。


その時、足元に何かが転がってきた。

ボールのようだ。


拾い上げて見てみると、ボールにはペンでこう書かれていた。


『爆弾』


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