he is hero.

坂中祐介

第1話

0代後半のヒロアキは、到頭、彼女ができず、この会社に長く仕事をしている。もともと、気が弱く、顔立ちだけは、芸能人に似ているとか言われるが、最近では、白髪も出てきた。前の彼女は、有村架純さんに似ていたが、他の男と結婚した。

 そんな前の彼女が、結婚した話を聴いて、思った。

 「ああ、おれは、駄目なのか」と思っていた。

 そして、その矢先だった。会社の「かくし芸大会」なんてあった。

 それで、「参加者募集」と張り紙があって、ヒロアキは、少し、思った。

 「手品」「演奏」も良いらしいと。

 だが、かくし芸大会の受付の女子社員が、気に入らない。

 担当が、長澤だった。あいつは、いやだ、と思った。

 この間、会社の研修会で、資料を作っていたら、「太田君、この書類、誤字があったよ」と言われて、凹んでいた。

 なのに、この間、山手線で、新宿まで行って遊んだ。

 そして、行きつけのコメダ珈琲店に入ったら、長澤カリナが、他の男とコーヒーを飲んでいたのだから。

 「あ、俺って、やっぱり魅力がないのかな」なんて訳の分からないこと考えて。

 カリナが、他の男といたらむかついた。

 確かに、長澤カリナは、女優の上白石萌歌に似ていても、だからと言って、現実、女優さんに似ていても、ドラマみたいな現実ってない。

 どうしようか、と思った。ただ、ヒロアキは、「オレは、昔は、声優を目指していたのに」と思い出した。

 確かに、声優の内田真礼さんのことが、好きだった時期がある。

 いきものがかりの『ブルーバード』をカバーで歌っているのも楽しそうにいつも思う。

 そうだな、とヒロアキは、感じた。

 そして、JR山手線で、品川まで来て、そこから何の気なしに、京急快特で、横浜まで行った。

 その時、ヒロアキは、新橋ユウイチの『幼馴染』を思い出した。

 あんまり人気のない小説だったけど、ネットフリックスの動画のドラマだった。

 京急快特で、川崎駅から横浜駅まで乗る話だった。

 そして、横浜でゲームをして帰る話だった。

 そして、横浜駅の書店で、たまたま、新橋ユウイチの『幼馴染』の文庫本を買った。

「へぇー、軽そうな本」

 と感じながら思い出した。

 ヒロアキは、国語の先生に「太田君は、朗読が上手いね」と言われていた。

 声優になりたいとか思っていた。

 そうだ、オレ、出ようと思った。

 会社のかくし芸大会に、と思った。

 …

 会社のかくし芸大会が、あった。

 そして、「では、次は、総務課の太田ヒロアキさんになります」と言った。

「朗読、小説新橋祐一『幼馴染』を読んでもらいます」「はい」となった。

ー「ねえ、シュンイチ」「何?」「今日のシュンイチは、最高だったよ」ー

「高校時代、都営浅草線の運転士になれないって、気がついて、オレ、ぐれてバイクを乗り回していたんだ」ーと読んだら、辺りが、視線が、ヒロアキに向かっていた。

 勿論、カリナもそうだった。

 そして、ー「ここが、私たちの始発だよ、よろしく」ーと終わったら、拍手があった。

 その時、ヒロアキは、久しぶりに感動を覚えていた。

 ヒロアキは、朗読が終わった後、少し、コーヒーを飲んでいた。

 そして、トイレへ行こうとしたら、そこにカリナが、いた。

「最高だったよ」とカリナが、笑顔で言った。

「ねえ」

「はい」

「これ、私の好物、チョコレートをあげる」と言った。

付き合いが始まったらしい。


·


·


·


·


·

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る