第2話 夢の果て
「あぁ、消えないで、消えないで」
あの子は少し笑い、消えていく。雲がかかるように情報やどんな性格か、顔か。
覚醒した時にはあの子を見た気がするという残り香しか残らない。今日も目が覚めてしまった。
会社を辛いと思ったことは無いから仕事はそう苦痛ではない。パン工場での検品は向いていたのだろうと思う。友人は大きな会社で働き、出世した者や脱落した者といて、自分にとってはどっちがいいというのは分からなかった。でも、もし進路を決める時に大学という世界は見てみたかったと思うことはある。
ほとんどが大学に行き、一人のテストは少し寂しかった。でも、パート尽くめの母を前に大学に行きたいとは言えなかったし、私の成績では国公立大学は無理だった。
浪人生活を出来る生活をしていく自信が無く、早く働いて、母を楽にさせたかった。
「古野君は大学行かないの?」
あの子は私を古野君と呼んだ。初恋だったと思う。
交際した人は覚えているのに、彼女を思い出すことが出来ない。おそらく僕はその時うなずいたと思う。
彼女は「そっか、古野君が大学クラスだったらよかったな。こうやってお話する機会も減っていくよね」と言ったかもしれない。
それすらもはっきり覚えているわけではない。
覚醒した時には消えるあの子。今日はコンサートに行った。最後の音は覚えているのになぜかあの子だけ思い出せない。玉のような声をしていたのだろうか。それすらも私は思い出せない。いっそ眠り続けたらあの子と居続けることが出来るのだろうか。寝だめをしてみる。睡眠環境として寝だめは良くないらしい。
今の仕事が向いているかというのはちゃんと睡眠が取れているお陰だろう。パン工場は楽しい、今いるのは惣菜パンコーナーだ。流れていくウインナーパンのうち形が変なのを取り除く。あとでもらえないのは少しもったいない。マスクをしているので、食べることはそもそも出来ない。
覚醒した。また思い出せない。どんな背格好で、服を着て、後ろ姿や表情だったか記憶にない。脳内のきっと大切な書庫に収納された。どうやっても開けることが出来ない。仕方がない、仕事に行くか。
やりがいのある仕事だ。ウィンナーパンの検品だ。ちゃんとパンの上のウィンナーがずれていないか確認する。
工場仕事は向いている。最近、疲れているのか。頭がくらむ。眠れてはいるが、記憶があいまいなことは多い。まるで夢を見ているようだ。夢にしてははっきりしない。
もう時間か。また何か大切な物を失った気がする。あの子をずっと見たかった。そばにいたかった。それだけなのに、たったそれで願いはかなうのに。なんで思い出せないのだ。僕の頭はおかしくなったのだろうか。
今日、僕は何で工場に向かっているのだろうか。出勤している? そんなことはあり得ない。これはきっと夢だ。
だって、あまりにはっきりしないじゃないか。覚えているのはウィンナーパンをピクニックでたくさん食べること、あの子と名前は
そうだ。大学進学コースで一緒だった。八重歯の可愛い女の子で今、通っている大学の同級生。家という場所に帰ろう。夢の中で眠ればまた現実に戻る。
家に戻って、ベッドに入った。すぐに現実に舞い戻った。今日は期末試験だ。
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