第24話 トレニア帝国の覚醒賢者、問題を引き起こす!?

 ギルドマスターの話によれば、滝つぼのあるところは魔物があまり寄り付かないくらいの神聖さを感じる場所だという。


 そこに頼まれた魔封の剣を沈めれば、オーク程度の魔物ならその活発化した行動を抑えることが出来るのだとか。


 もうすぐ滝つぼに着く――そんな時。エドナの前に、はぐれた獣人なのか巨人族に似たオーガが姿を現した。オーガは何かをする気配を見せないものの、何かを探しているようにも見えている。


「何? 何を探しているの?」


 物ではない、何か魔物にとって大事なものを探しているのか、次第に木々や草をかき分けてまで探すようになった。


 そこに偶然にも通りすがりの少年らしき二人が通りがかり、そして。


「う、うわあああああああ!!」

「く、来るな……来るなーーーーーーーー!!!」


 二人はオーガを見ただけで恐怖状態に陥ったのか、辺り構わずに自分たちが使える属性魔法を撃ちまくっている。


 そうなると何もしてこなかったオーガもその魔法攻撃に反抗することになり、やがてその矛先を冒険者に向けることになった。


「いけないっ、オーガの気をそらさないと」


 そうは言いつつも、エドナには単体の魔物……それもオーガといった獣人に有効な攻撃魔法を有していなかった。ましてエドナの攻撃には不安定さがあり、ここで何らかを発動してしまえば二人にも影響が及んでしまう。


 そのことを考えてしまったエドナはオーガの動きに注意しながら、二人がこのまま無事にいなくなってくれることを願った。


 しかしそう簡単に行くわけもなく。


「くそっ、オーガに喰らわせてやるっ!」


 一人が焦りを出して先に攻撃をしようとしている。それはあまりにもおかしなことと思ったエドナは彼の前に出て、攻撃をやめるように言う。


「やめて! オーガはこの辺を歩いてるだけ! それなのに攻撃を仕掛けるなんておかしいよ」

「あぁん? 子供? 子供がここになんでいる?」

「あ、あなたたちだって子供じゃない! どうしてここにいるの?」

「う、腕試しに決まってるだろ! おれたちはトレニアの魔法学園に進むんだ。オーガ一匹ごとき倒せなくてどうするっていうんだ! いいから、そこをどけよ!!」


 二人の少年はトレニア帝国の魔法学園に入る前に、ここで実戦をしておこうと考えたらしい。


 そんな少年たちに対し、エドナはそれでもやるつもりならとオーガを守る方に回っている。その突然の行動に、少年二人はエドナに向けて魔法を発動させるつもりがあるらしい。


「な、何するの!」

「ふん、どうせお前も魔法学園に行くつもりなんだろ? そんな半端な正義心でおれらに歯向かおうって言うんならおれらがお前を試してやるよ!」


 何を言うかと思えば、よりにもよってわたしを攻撃対象にするだなんて。賊みたいな子供もいるもんだなぁ。

 ここで懲らしめておけば、いざ魔法学園に入った時には口出しをしてこないと思うし、ちょっとだけ懲らしめてあげようかな。


 エドナはそんなことを思いながら、後方にいるオーガを気にしつつ少年二人に対峙する。


「ふん、生意気な!」

「それなら、おれらの力をみせつけてやろうぜ! 街の近くに現れるオークたちもおれらでやっつけてやればいいんだ」


 そんなことを言いながら、二人はエドナに向けて属性魔法を放つ準備を始めている。属性魔法を放つには唱えをするか、対応する属性を学んでいなければ上手くいかない。


 その基本が出来ていないようで、発動するまでに時間がかかっている。


「くそっ、何で発動しないんだよ」

「早くしてよ! 目の前に獲物がいるんだぞ!」


 二人は悔しそうにしながらエドナから目を離さずに今か今かと待っている。


 そして、発動魔法が放たれた――が、その行方はよりにもよってオーガに対してだった。おそらくオーガを恐れの対象としていたからだと思われるが。


「バカっ! 何やってんだよ! あっ……あぁぁぁぁぁ」

「えっ……」


 オーガに命中してしまった小さな雷魔法により、オーガはすぐに気付き少年二人を追跡。もう逃げられないというところまできて、エドナがオーガを呼び寄せる。


「《サンダースパーク》!! これならどう?」


 エドナは軽く雷魔法をぶつければ、オーガの気がそれてどこかに行ってくれるものだと思っていた。


 しかし――。


「あ、あれっ? 何で周囲がこんなに暗くなるの?」


 上手くいった――そう思っていたのもつかの間。エドナが発動した雷魔法は、周辺の木々を焼き尽くし、空は曇天、鳴りやまないいかづちによって魔物はおろか、人が一切立ち入れないエリアと化していた。


 ええぇ?

 何でこうなるの?

 精霊の加護を成長させて魔法発動にはもう不安定さを感じさせないと思っていたのに。全然じゃない!


 エドナの雷により、少年二人はすでに逃げ延びていて何かを捜し歩いていたオーガも、いつの間にか姿を消していた。


 このエリアに残ってしまったのは、エドナによって立ち入り制限が生じた非常に面倒な状態異常だった。


「もう~! どうしてだろ。どうしてわたしが放つ魔法って問題ばかり起こるの?」


 こんなことでは先が思いやられる。そんなことを思いながらも、エドナは近くとされる滝つぼに向かって歩くことに。


 しばらく森の中を歩いていると、周りの景色とはまるで違う神秘的な場所に出た。そこに広がる光景はギルドマスターが言っていたとおり、確かに魔物を寄せ付けないような神々しい滝が流れ込んでいて、その水の最終的な場所が滝つぼになっていた。

 

「ええと、ここに魔封の剣を沈める……と」


 エドナはギルドマスターから託された魔封の剣を滝つぼに沈め、そのまま待つことにした。


 しかし――。


「ん~? 特に何も起きそうに無いけど、これでオークが弱まったりするのかな」


 目に見えない効果なこともあって、エドナは何度も疑問を浮かべながら沈めた剣を確かめようと滝つぼに近づく。


 しかしそこには何も無くなっていて、綺麗な水が変わりなく流れているだけだった。


「あれぇ? 魔封の剣はどこ?」


 水の中に手を突っ込んだりしても、そこには一切何も無いという事態。しかしとりあえず言われたことをやり遂げたエドナは、そのままそこを立ち去ろうとするが。


「そういえば……何かここでやることがあった気が」


 あっ……と言い出して、もう一つ重要なことを思い出す。エドナがずっと肌身離さず持っていた朽剣を思い出したかのようにして、滝つぼの中に沈めてみることに。


 すると、しばらくして。


 何となく後ろの方から気配を感じて振り向くと、そこにいたのは。


「かっ、火竜……って、それって……ドラゴンってこと!? え、何で?」


 エドナは騒ぎ立てることも無く驚いてしまうが、もう一度見てみるとすでにその姿は無く、そこに落ちていたのは朽ちた剣から変わった真紅の剣だった。


「あ、あれ? 特に動きも無ければ大爆発することも無いの?」


 今まで何かしら大きなことが起きていたエドナにとって、これほど拍子抜けをしたことがないくらい、静かすぎるものだった。


 エドナは魔封の剣を沈めたこと、オーガがいたこと、そして少年二人が近くにいたことをギルドマスターに報告してその日は眠りについた。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん……」

「エドナさん、大変ですっ!! お、起きてください!」


 何事かというくらい、リルと男の子がエドナを叩き起こして来た。


「ど、どうしたんですか?」

「大変です、大変なんですよ!! そ、外を見てください!」

「外……?」


 どういうわけか、寝て起きたらトレニア帝国内の空が常にいかづち状態に陥っていて、街中にはオークの軍団、そしてどこから集結したか分からないぐらいの魔物が一斉に押し寄せてきていた。


「えええ? な、何でどうして?」

「そ、それが……朝起きたらすでに街の中はパニック状態で、幸いなことといえば家自体に魔法騎士からの守りがついているくらいでして……ですのでエドナさんは、急いでギルドに行った方がいいですよ!」

「そ、そうします。リルさんもお子さんもこのままお家で大人しく待っててくださいね! わ、わたしが何とかして来ますから」


 そう言うと、エドナは急いで街中にあるギルドに向かって走りだす。


「お、お待たせしました! エドナ・ランバート! ただ今、到着しま……えっ」

「ふふっ、やっと会えたね、エドナ!」


 ギルドに入ったところで、ようやく再会した。それはもちろん、ライラパーティーだ。


「エドナ……久しぶり」

「あぁっ、エドナちゃんがこんなに立派になって……! 会いたかったですわ」

「リズ、セリア……あの、あのね……」


 積もる話はあるものの、今は緊急事態。そんなこともあってなのか、ここにはライラパーティーの他にも高ランクパーティーばかりが集まっていた。


「諸君!! 知っての通り、トレニア帝国始まって以来の緊急事態が発生した。敵は突然スタンピードとなってここに押し寄せて来た。市街地は魔法騎士団が守っているが、周辺や城の辺りはまだ防御が完璧ではない。そこで――」


 ギルドマスターの話では、スタンピード……魔物、動物たちが興奮状態となったり突然の恐怖状態によって同じ方向……この場合、トレニア帝国に向かって来ているという。


 そこでギルドの冒険者が総動員で、ひと際目立つとされるオーク軍団と辺境からも集まって来たゴブリン軍団の一斉討伐をするのだとか。


「さぁて、腕が鳴るねぇ」

「ライラと一緒のパーティーでいいの?」

「ん~……どうだろうね。私は戦士だらけのパーティーに組み込まれそうだけど」


 ライラは寂しそうにしながら気合いを入れている。


 そうかと思えば、リズが声をかけてくれた。


「エドナ。元気してた?」

「うん。色々あったりしたけど、何とか」

「ん……良かった。転送がされていないって分かった時、セリアが泣き崩れていたからリズもどうすればいいのか分からなくなってた……本当に良かった」

「うん、うん……わたしも同じ…………」


 あのリズがあんなに感情を露わにするだなんて、こんなに時間が過ぎていたんだなぁ。色んな所と場所と人に会って来たけど、やっぱり冒険者パーティーのみんなと一緒にいるのが嬉しい。


「では、各々で対処して速やかに行動に移ってくれ! 以上だ」


 ギルドマスターの長い話が終わったところで、セリアが声をかけてくる。


「エドナちゃん……」

「うん。会いたかったよ、セリア! あ、あのね……セリアとリズに後で話をしたい人がいるんだよ。それでね――」

「うん、うん……。今はとにかく殲滅しないとですわね! それからですわよ! エドナちゃんが思いきりやれば、こんなにギルドが気合いを入れなくても一瞬で終わりますものね」

「そ、そうなのかな……えっと、セリアとリズはもうわたしの力でどうにかなることで納得してるってことでいいの?」


 近くにいたリズ、そしてセリアがエドナの言葉に力強く頷いている。つまり、トレニア帝国に何らかの問題が起こったとしても、容赦なくやってと。


「も、もちろん、ここで暮らす人たちは何も起きないようにするから安心してね。それこそ、あの……リルさんとかね!」

「まぁ! お母さまを知ってるのですね! ふふっ、それならもう全てをお任せしますわ!」

「……うん。エドナの最強の魔法を見たい」


 何だかわたしのやることって絶対何か起きる前提なんだなぁ。でも少なくともセリアとリズはわたしの力を信じてくれているし、もう思うままにやるだけだよね。


「あ、そうそう……ライラでしたら頑丈さだけ取り柄ですので、気にしないでいいですわ」

「そう。ライラは気にしなくていい」


 何だかんだで仲良しだし、いいパーティーなんだよね。


 エドナは応援してくれるセリアとリズ、戦士として動くライラを信じてトレニア帝国に集っている魔物に向かって仕掛けることにする。


「まずはオーク軍団からいくね!」

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