第30話 布教

 帰り道は護衛なしである。俺たちは馬車で進む。アニタが言う。

 「この馬車はすごいですね。」「そお。」

俺は、この馬車しか乗ったことがないのでアニタの言うことが判らない。

 「立派ですし。乗り心地がいいです。」「馬車ってこういう物じゃないの。」

 「私の知っている馬車は座席もないですし、ゴトゴトと揺れていました。」「それって荷馬車じゃないの。」

 「ええ、荷物を運ぶ馬車です。」

ローズが俺に説明する。

 「乗車用の馬車に乗るのは貴族か大商人位よ。普通は荷馬車に乗せてもらうのよ。」「そうなんですか。お姉さま。」

 「そして、こういう馬車が護衛もなしで旅をすると狙われやすいのよ。」「大丈夫です。お姉さまと私がいます。」

俺はトラブルのフラグが立ったと思う。しかし、何事もなくバレーヌ伯領に入る。旅は順調である。

 途中、村を通ると村人に止められる。何事かと思っていると村人たちが俺たちに聞く。

 「もしかして、アニエス様ですか。」「私がそうですが。」

 「おお、やはりアニエス様だ。」「本当に天使のようだ。」「アニエス様、万歳!」「万歳!」

 「いったい何なのですか。」「この村は魔獣から冒険者に救われました。」

それが何で俺に関係あるんだ。

 「彼らは、すべてはアニエス様のおかげだと言うのです。」「アニエス様は天使の様なお方だと聞いています。」

これは奴らの仕業だ。「アニエス様をあがめ隊」が布教したらしい。俺たちは歓迎されながら村を通る。

 これまで無事に旅をできたのは、「アニエス様をあがめ隊」が露払いをしていたのかもしれない。それはありがたいが猛烈に嫌な予感がする。

 無事にバレーヌ伯の街に入る。バレーヌ伯の屋敷に泊まりたいところだが行きにトラブルがあったのでファヴィアン様に顔を合わせづらいので宿に泊まることにする。

 宿の中でも上等な宿を選ぶ。ファヴィアン様の街で無用なトラブルは避けたかったのだ。俺たちは部屋を取るためにカウンターへ行くと男たちに取り囲まれる。

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