二人目の聖女が頼りないため、転生失敗スライムが頑張ります〜愚かな人類は反省してください〜

文丸くじら

1綛

1束「婚約破棄と縁結び」

第1話「ぼうとう」

 自分は魔物のスライムである。名前はまだない。

 瘴気を浴びた水の一部から形成され、ぷるぷると震えているだけの存在だ。

 禍々しく変質した大木の幹へと身を寄せ、根っこから水分を補充する平和な日々を送っていた。

 

 そんなある日。

 大木が神子の手によって浄化され、住処を失ってしまう。

 さらには魔物狩りしていた騎士に捕まり、火の中へと投げ入れられた。

 灰の中で干からび、残ったのはカラカラに乾いた皮膜と生命核のみ。

 余命が数刻も保たないと悟った頃。

 

 女神の声を聞いた。

 

 ――おお、哀れなスライムよ。

 ――死んでしまいそうとは情けない。

 

 生命核に直接響く言葉を、理解したくなかったと心の底から後悔する。

 

 ――うん、でもまあ素質はあるし。愚かな人類達に反省してもらうには充分でしょう。

 ――私がしっかりバックアップしてあげるし、心配しなくていいからね。

 

 灰の中で死ぬのも悪くない気がしてきた。

 短い生命時間だったが、満足するくらいには美味しい水を堪能したので心残りはない。

 魔物にあの世とやらがあるかは不明だが、このまま生命核の活動停止を待ち望んでおこう。

 

 ――死亡後に転生手続きと備品の配給。あとは、えーっと……。

 ――前にやったのいつだっけ?千年は経ってる?

 

 死ねない理由ができたかもしれない。

 灰の中からずるずると這い出て、水の気配を探す。

 しかし風すら通さないほど密集した植物や、動物達の活力溢れる気配。それらが一切感じられない。

 皮膜でわかるのは焼けた大地のざらざらとした感触だけ。

 

 瘴気によって変質した魔の森。

 その全てが焼き払われ、灰で覆われていることにようやく気づいた。

 

 ――オプションで前世の性質を引き継ぐことができるって。よかったね。

 

 なにもよくないが、もうどうにでもなれ。

 女神相手に拒否権を使うこともできないだろうし、人権は生まれた時から存在しない。

 好きにやってくれ。さよなら今生、来世は女神の下っ端である。

 

 ――じゃあ転生ライフスタート!

 

 眩い光に包まれて、全身に心地いい暖かさが澄み渡る最中。

 

 ――あ。

 

 最悪に間抜けな声を聞いてしまった。

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